蟷螂の斧
-河野太郎議員の電力システム改革論への疑問②-
澤 昭裕
国際環境経済研究所前所長
原発のいわゆる「出力調整」問題の壁
このルールに基づく運用について、議員は「今は原発の稼働を優先して、再生可能エネルギーの出力を抑制しているが、それを逆にせよ」と主張しているのだろう。しかし、これを見て驚いた。こうした主張は、これまで政治的な問題にもなったいわゆる原子炉の出力調整を積極的に行うべきだということにつながってしまうからである。
原発は、固定費が大きく可変費が小さいので、出力一定で運転する方が経済性の面で望ましい。しかし、技術的には出力調整ができないわけではない。もともと、軽水炉は潜水艦という移動装備のエンジンに使われている技術であり、出力調整ができなければものの役に立たない。原子力発電の比率が高いフランスなどでは、通常の発電所でも出力調整が行われているくらいだ。にもかかわらず、日本でできないでいるのは、チェルノブイリ原発事故が出力抑制運転の試験中に起こった等々の理由で、反原発勢力が強硬に反対してきたからである。
再生可能エネルギーを原発よりも優先すべきとの主張は、昨今の日本の空気からすれば、誰も表立って批判できないだろう。しかし、「優先」というのは何を優先することを言っているのか。政府の支援だの民間投資環境の整備だの、経済的な支援については原発よりも優先的に適用し、再生可能エネルギーの導入を促進していくということと、系統運用の中で最適な給電指令を行っていくために、技術的観点でどの発電機を「優先」させていくのかということとは、次元が全く違う話である。仮に、その技術的な面でも「優先」給電させようとすれば、「原発の出力調整運転の実現」という政治的に難しいアジェンダとセットになるのだ。議員がその先頭に立って、そのアジェンダを実現する役目を果たしていただけるのであれば、自らの「再生可能エネルギーを原発より優先」という主張と言行一致だと認めざるをえない。ぜひ、これまでの懸案だった本件について、電力システム改革の実現を契機に解決していただくことを望みたい。