環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その5)

法制化10年経過後の課題②


株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役

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 土壌汚染問題のもう一つの課題は、(2)土壌汚染調査が必要な土地の調査が進んでおらず、深刻な汚染の把握や管理が進んでいない可能性があることです。

 2010年4月から施行された改正土壌汚染対策法により、土壌調査実施の契機が拡大しました。
 これにより法律の対象に基づく調査が増加し、土壌汚染があるとして登録される指定区域数も急増しています。「要措置区域」及び「形質変更時要届出区域」の合計は、2014年3月時点で1,065カ所となり、3年間で5倍以上に拡大しました。特に形質変更時要届出区域は、1,016カ所に上っています。
 改正法では、自主調査で土壌汚染が判明した場合に土地所有者等が都道府県に区域の申請を行える制度が創設されましたが、形質変更時要届出区域の約2割は、この自主申請に基づく指定となっています。

≪閉鎖施設の約8割が調査猶予≫

 土壌汚染対策法では、水質汚濁防止法の有害物質使用特定施設の使用の廃止時に土壌調査が義務付けられていますが、土地の利用方法から見て土壌汚染による人の健康被害のおそれがないと都道府県知事が確認した場合には、調査が一時的に免除(猶予)されています。具体的には、施設をそのまま工場や倉庫として利用する場合など、不特定多数の人が敷地に立ち入らない状況の場合には調査が猶予されます。
 直近の統計データとなる2012年度には、水質汚濁防止法の有害物質使用特定施設の廃止件数は1,233件あり、過去最高となりました。このうち79%の970件では調査が猶予されています。土壌汚染対策法が施行された2003年からの累計では2012年度までに9,051件の施設が廃止されていますが、このうち土壌汚染調査を実施しているのは約2割に留まり、調査が一時的に猶予されている施設は累計7,200件を超えています。

≪深刻な土壌・地下水汚染の把握・管理の遅れ≫

 上述した閉鎖後の有害物質使用特定施設において土壌汚染調査を実施すると、基準を超える汚染が判明する確率は3割前後ありますが、一般的に有害物質を使用していたことがある土地では5割前後の確率で基準を超える土壌汚染が判明しています。
 土壌汚染の発生する可能性が比較的高いこれらの土地の調査が進まないことは、土壌汚染が原因となった地下水汚染の実態把握が遅れることにもつながっている可能性があります。
 汚染された地下水の回復には多額の費用と時間を要するため、地下水汚染の拡がりによる水資源への影響だけでなく、経済的・社会的影響も懸念されます。公共財としての地下水の保全を早期に進めるためにも、緊急性の高い土壌・地下水汚染を把握・管理する枠組みを構築することが必要であると思われます。

≪国土全体の把握が未済≫

 日本国内には30万箇所を超える潜在的な土壌汚染が存在すると試算されています。一方、2003年2月に土壌汚染対策法が施行された後に、法律に基づき汚染が判明し区域指定された土地は2012年までに累計約1,600カ所に留まり、都道府県が把握した土壌汚染対策法に基づかない汚染判明事例を加えても約8000カ所になっています。
 改正法により法に基づく土壌汚染を実施する契機は拡大したものの、法対象となる土地は一定規模(3,000㎡)以上の土地の形質変更時に限定されていることから、小規模敷地の開発時には土壌汚染の公的な実態把握は進んでいません。
 土壌汚染の存在は、その土地に住む人の健康への不安はもとより、不動産取引関係者にとっても不安大きなリスク要因の一つです。このため、土壌汚染実態の把握が進まないことは、土壌汚染の懸念がある土地の取引、さらにそのような土地が集まった地域の開発にも影響を与えるおそれがありますことになります。
 環境省から平成20年3月に公表された「土壌環境施策に関するありかた懇談会報告」における現状と主な課題として以下のような言及しました。

『土壌汚染は、不動産の資産価値に関わり、経済的側面が大きく、各方面においてその取扱いの重要性が増している。(中略)
我が国では土壌汚染への取組の歴史が比較的浅いことから、このようなブラウンフィールドは、現時点ではそれほど顕在化していないと考えられるが、狭隘な我が国の場合、工場跡地等が住居・商業地等として利用される場合が多いので、諸外国のように問題となる可能性がある。
 こうしたことから、汚染の状況や土地利用の目的に応じて有効に土地の利活用が図られるように幅広い関係者が連携して取り組んでいく必要がある。
企業経営や高齢化に向けた都市再生にとっても利便性の高い土地が活用されずに機会損失につながっている。』

 上述した2008年時点には顕在化していなかった問題が、5年経過した現在、急速にその問題が現実的になっていのではないかと考えられます。
 このような状況をみると、早期に調査を実施する必要性だけが強調されがちですが、連載の前半でも紹介したいように、土壌汚染の調査が進まない理由は経済的な要因に大きく関連しています。
 したがって、軽微な汚染を過大なコストをかけずに適切に管理する仕組みや土地利用に応じた基準等の設定等、総合的な解決策を整備することが必要になっているといえるのではないでしょうか。

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