私的京都議定書始末記(その37)

-COP16初日-


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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COP16初日

 29日のCOP16初日は、カルデロン大統領が出席する開会セレモニーで始まった。午前中は開会式とCOP、CMPのプレナリーが、午後にはAWG-LCAとAWG-KPのプレナリーが行われる。

開会式でのカルデロン大統領

 私がメインスピーカーになるのはAWG-KPである。だが初日のプレナリーで発言するかどうかは未確定だった。通常、初日のプレナリーでは各交渉グループ(G77+中国、アフリカグループ、LDCグループ、AOSIS、アンブレラグループ、EU、環境十全性グループ等)の代表が発言し、個々の国が発言することは余りない。「京都議定書第二約束期間にはいかなる状況の下でも参加しない」というポジションの表明を、どのようなタイミングで行うかということは日本政府代表団内でも議論した。仮にAWG-KPプレナリーが各交渉グループ代表の発言だけで終わるのであれば、日本だけ突出して発言することは差し控えようと思っていた。しかし交渉グループ代表だけではなく、個別の国が発言を始めるのであれば話は別である。

第二約束期間設定の大合唱

 2010年11月29日(月)の午後、AWG-KPプレナリーが開催された。巨漢のジョン・アッシュ議長が席につき、「AWG-KPは2005年に設置され、18回もの議論を重ねているが、未だ合意に至っていない。最終的な目標は京都議定書第3条第9項に基づく第二約束期間の設定である。天津AWGでの議論を踏まえ、議定書改訂テキストを用意した。京都議定書は国際社会から幅広い支持を受けており、カンクンで議論を決着させたい」と述べる。

 引き続き、各交渉グループからのステートメントである。常に一番手になるのはG77+中国で、代表のイエメンから「第二約束期間設定という京都議定書のマンデートを満たすべき。第二約束期間は、本来、コペンハーゲンで合意すべきであったものだ。また先進国からのプレッジ内容は不十分であり、もっと引き上げるべき。第一約束期間と第二約束期間の間にギャップができることは赦されない」との発言があった。続いてEUを代表してベルギーが「EUは一つの法的枠組みを志向するが、大きな成果の一部としての京都第二約束期間について検討する用意がある」と述べた。アフリカグループを代表してコンゴ民主共和国が「第二約束期間設定は死活的に重要であり、カンクンで附属書Bの改正を採択すべき。2トラックアプローチを厳守すべきであり、第二約束期間の合意がLCAでの合意のために必要」と述べた。AOSISからはグレナダが「2トラックアプローチの下でAWG-LCAでも法的拘束力ある成果が必要。第二約束期間を2013年から開始するためにカンクンで第二約束期間に合意すべき」と述べた。続いてアンブレラグループを代表してオーストラリアが「AWG-KPの成果はAWG-LCAにおける包括的な合意の一部であるべきだ」と発言した。日本も参加するアンブレラグループの発言ではあるが、第二約束期間参加を容認するノルウェー、これに反対する日本、カナダ、ロシア、様子見の豪州、ニュージーランド、我関せずの米国と立場が分かれており、最大公約数的なステートメントになっていた。続いてLLDC代表のレソトが「第二約束期間の発効が最重要」と述べ、バングラデシュも「第二約束期間の設定は必須。第一約束期間と第二約束期間のギャップは認められない」と呼応する。ALBA代表のボリビアは「第二約束期間はコーナーストーンであり、第二約束期間を設定するという法的マンデートの再解釈は許されない」と咆哮した。

発言ボタンを押す

 私はこれらの発言を聞きながら発言すべきかどうか機会をうかがっていた。実はLDC代表のレソトに加え、バングラデシュが別途フロアをとった時点で「交渉グループ代表のみが発言する」というルールが破られており、そこで発言を求めるボタンを押しておいた。これまでの発言の大部分は「第二約束期間の設定こそがカンクンの成果である」と主張している。EUは「第二約束期間を検討可能」と述べて土俵を割っており、アンブレラグループの発言は最大公約数であるが故にパンチに欠ける。「沈黙は同意(silence implies consent)」という。このままでは「第二約束期間設定」という方向性が暗黙の了解になってしまう。

 とはいえ、環境NGOやプレスもいる初日のプレナリーで発言することには正直、迷いもあった。発言ボタンを消して、思い直してまた点けることも何度かあった。そんな中で、同じアンブレラグループのノルウェーが発言を始めた。「ノルウェーは第二約束期間に入る用意がある。ただし1つの議定書(京都議定書)だけでは不十分であり、LCAにおいても法的成果が必要」という。EUと全く同じラインである。

 ここで私の腹は固まった。アンブレラグループの中でEU寄りのノルウェーが別途、自分のポジションを言うならば、日本も自国のポジションを表明しようと。またAWG-KPのプレナリーが終われば、アッシュ議長のことだから、どうせ5つのサブグループに分かれて議論を丸投げすることはわかっていた。交渉全体にかかわる日本の考え方を早い段階で表明しておくにしくはない。

 アッシュ議長が 「Japan」と指名した。私はマイクをオンにし、おもむろに発言を始めた。

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