再生可能エネルギー政策に苦悩する
欧州とアジアから学ぶこと


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(機関誌「月刊 経団連 2013年12月号」からの転載。)

 エネルギー政策で重要な点は、経済性、安全保障、環境性能であり、太陽光、風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)はエネルギー安全保障、温暖化対策上からは非常に望ましい発電源だ。しかし、経済性の観点からは問題が多い。このため、市場に任せておいては導入が進まない再エネ促進の支援策として、1978年に初めて米国で電力規制政策法が導入された。以来、欧米諸国による試行が続き、2000年にドイツで本格導入された再エネから発電された電気を、市場価格よりも高く買い取る固定価格買取制度(FIT)が支援策の中心となった。日本でも菅直人元総理が辞任と引き換えにFITの導入を迫り2012年の7月から実施されている。
 FITにより再エネ発電設備の導入は増加したが、エネルギー政策上重要である経済性の面から政策の弊害が指摘されるようになってきた。経済性は消費者のコスト負担の大きさと公平性という観点と、導入に際して必要なインフラ支援を含む投融資額で測られることになる。ドイツ、タイの具体例を基に政策の経済性に関する問題点を見てみたい。

消費者の負担額と公平性〜ドイツの家庭用電気料金は日本の1.5倍に

 2013年5月現在のドイツの標準家庭の電気料金は1kWhあたり26.5ユーロセントに達している。2000年のほぼ2倍に跳ね上がり、日本の標準家庭の料金の1.5倍だ。FITによる家庭の負担額が電気料金高騰のかなりの部分を占めている。2013年の家庭の負担額は1kWhあたり5.28ユーロセントにも達している。
 ドイツのFITでは太陽光発電設備を導入すれば20年間にわたり導入時に適用されていた価格の支払いが保証される。設備導入につれて、負担額は毎年増加するが、下がり始める可能性があるのは当初設備導入の20年後からだ。このため当分毎年負担額は上昇し、電気料金も上昇する。
 環境問題への取り組みには理解があるドイツ国民だが、このFITの負担額については「高過ぎる」という声が世論調査では半数を超えるようになってきた。「高過ぎる」との回答が最も高い州は旧東ドイツのザクセン=アンハルト州で73%に達する。最も低いのは旧西ドイツのバーデン=ヴュルテンベルク州で43%だ。1人あたりGDPを見ると、ザクセン=アンハルト州は約2万3,000ユーロ、バーデン=ヴュルテンベルク州は3万6,000ユーロと大きな差がある。 
 国民の反応を見ると、負担額の大きさ以外の政策の問題点が浮き彫りになる。公平性の問題だ。価格に対する需要の弾性値が低い必需品の電気では、値上がりしても消費の抑制は簡単ではない。特に贅沢な家電製品を持っていない低所得者が節電をすることは容易ではない。冷蔵庫や照明を切ることができない低所得者層への影響の大きさがわかる調査である。
 9月22日の総選挙前から家庭の負担額引き下げについて政権からいくつかアドバルーンが上げられたが、本格的な対策はこれから議論されることになる。

再エネ導入には支援する設備が必要〜タイは再エネ導入のために揚水発電設置

 タイ政府は小規模再エネからの発電に関し2010年11月から買い取り金額を上乗せする補助金制度を開始した。対象となる設備は2011年3月には拡大され、太陽光発電については累計200万kWまでが補助金の対象となった。同制度は事業者に有利なため申請はすでに200万kWに達している。
 政府は2013年7月から新制度としてFITを開始した。そのFITは事業者にとり厳しく、対象は小規模の屋根置き設備と地域住民が設置する設備のみとなった。導入上限値はそれぞれ20万kWと80万kWになっている。旧補助金制度との比較では買い取り金額は大きく減額された。旧制度では税による負担だったが、電気料金による負担になったことから、電気料金は1kWhあたり0.1バーツ値上がりするとエネルギー省はみている。家庭の電気料金は1kWhあたり3〜4バーツ程度であり、3%程度の上昇になる。
 300万kWの太陽光に加え、バイオマス480万kW、風力180万kWを中心にタイ政府は再エネ導入目標を1,394万kWに設定している。不安定な電源である再エネの増加に伴い、政府は蓄電装置として50万kWの揚水発電所を建設する。揚水発電のコストは通常の電源より高くなり、これも電気料金上昇要因になる。

再エネ導入支援策はどうあるべきか

 ドイツ、タイともにエネルギー安全保障に問題を抱えている。図表のとおりドイツはロシア依存度が高いこと、タイは発電量における天然ガス依存度が約7割と高いことだ。再エネは安全保障上必要な政策だが、問題は費用対効果である。10年以上にわたり大きな負担を行ったドイツの太陽光は5%、風力は8%を賄うだけだ。現在の政策の有効性に疑問を抱く欧州の大手電力会社10社の首脳が、再エネへの支援策の廃止を呼びかけるほどになった。
 ドイツでは2013年5月から蓄電池への補助金政策が導入された。これからは、FITのような再エネ支援策を単純に進めるのではなく、効果的な蓄電設備を導入するなどの消費者の負担軽減策が必要だ。
 日系企業が多く進出しているタイでも、太陽光パネルのシェアは中国が70%といわれている。コモディティー化した商品で競争するのではなく、新興国が簡単にまねできない技術を磨かなければならない。例えば、小型の電池から大規模な蓄電技術までの開発を一層支援する政策が必要だろう。欧米諸国はすでに取りかかっている。