原発を止めたいと思うなら再生可能エネルギー導入を叫んではいけない
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
表3 再生可能エネルギー発電設備の導入状況(FIT制度導入後2012年7月~2013年2月末の運転開始した設備容量と認定済み設備容量(カッコ内の値))とその発電量の推定値 (平成25年5 月17 日、資源エネルギー庁発表のデータを基に試算)
再エネ種類 | 設備容量*1 (万kW) |
設備利用率*2 | 発電量推定値*3 (百万kWh ) |
発電量比率*4 ( % ) |
太陽光 (住宅) |
83.7 (124.6) |
0.09 | 659 (982) |
55.6 (7.9) |
太陽光 (非住宅) |
42.0 (1,101.2) |
0.09 | 331 (8,687) |
27.9 (70.1) |
風力 | 6.3 (62.2) |
0.30 | 165.6 (1,635) |
14.0 (13.2) |
中小水力 (1000kW以上) |
0 (2.3) |
0.65 | 0 (131) |
0 (1.05) |
中小水力 (1000kW以下) |
0 (0.5) |
0.65 | 0 (28) |
0 (0.2) |
バイオマス | 3.0 (14.7) |
0.70 | 23.6 (901) |
2.0 (7.3) |
地熱 | 0.1 (0.4) |
0.70 | 6.1 (24.5) |
0.01 (0.2) |
合計 | 135.2*5 (1305.9) |
1,185.3 (12,384) |
- *1;
- FIT 制度適用での8ヶ月間に運転を開始した設備の容量、カッコ内数値は同期間内のFIT制度認定済みの設備容量
- *2;
- 年間平均設備利用率、文献3) から、風力については、陸上風力と洋上風力の値から適宜推定した
- *3;
- 本文中 ( 1 ) 式を用いて計算した発電量の推定値、カッコ内数値は、認定設備容量に対する発電量の推定値
- *4;
- 各再エネの発電量合計値に対する比率、カッコ内数値は認定設備の容量の発電量の比率
- *5;
- 各再エネの設備容量の値を機械的に加算した値
表4 新エネ電力の導入量、2011 年までの積算量、2011 年(暦年)
(エネ研データ1) からIEA への報告値を基に作成)
風力 | 太陽光 | 地熱 | 合計 | |
設備容量(万kW) | 258.5 | 491.9 | 50.2 | 801.1 |
発電量推定値*1(百万kWh) | 4,820 | 3,874 | 3,078 | 13,712 |
*1;本文中の( 1 ) を用いて計算した、年間設備利用率は表3 の値を用いた
地球温暖化対策としてのCO2の削減の要請はエネルギー政策から分離させなければならない
もともと、FIT 制度の適用による再エネ電力の利用は、民主党政権下で地球温暖化対策としてのCO2排出削減を目的として法案化が図られていた。それが、原発事故の後、同じ、CO2 の排出削減効果のある原発の代替として法案化、施行されるようになった。結果として、上記したように、原発代替として、本来、その本命とならなければならない最も安価で安定に電力を供給できる石炭火力が片隅に追いやられてしまった。これは、地球温暖化対策としてのCO2排出の削減が、いわれなく、この国のエネルギー政策のなかに入り込んだ結果である。ちなみに、日本の原発事故を教訓として、脱原発に踏み切ったドイツでは、原発代替電力は石炭火力の増設に頼るとしている。再エネ電力は、あくまでも地球温暖化対策として、国内経済の許す範囲内で推進されてきたと言ってよい。
いま、IPCCの主張する温暖化への CO2原因説が怪しくなっている。しかし、もし、それが正しかったとしても、CO2 に起因するとされる温暖化による地球の被害金額が定量化できない以上は、CO2 排出の削減にやみくもにお金をかけることは、科学技術における費用対効果の観点から何の意味も見出すことができない。特に、地球上のCO2 排出量の4 % 程度しか排出していない日本にとっては、それは、単なる「いい恰好しい」に過ぎない。
やがて枯渇する化石燃料資源をできるだけ有効に使って、それを長持ちさせること、具体的に言えば、現在、世界の電力生産の主体を担っている石炭火力の発電効率の世界一高い日本の技術を世界に移転して省エネを図ることこそが、地球上のCO2 排出削減に貢献する現実的な対応である。もちろん、再エネ電力についても、いま、EU 諸国で大きな社会問題になっている不条理な FIT制度に依存しないで、市場経済原理に従って、導入可能なものから種類を選んで(例えば風力)、順次、導入して行けばよい。日本としても、「明日」の問題として、この再エネ発電技術開発の努力は地道に続けて行くべきであるが、これをグリーンビジネスとして、「今日」の経済成長(それは、確実にエネルギーの消費を増大させる)を促す道具にすることは厳に慎むべきである。
<引用文献>
1. 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012
2. 日本エネルギー経済研究所編;「EDMC/エネルギー・経済統計要覧2012年版」、省エネルギーセンター
3. 平成22年度環境省委託事業「平成22年度再生可能エネルギ導入ポテンシャル調査報告書」、平成23年3月
4. 北澤宏一;日本は再生可能エネルギー大国になりうるか、2012