原発を止めたいと思うなら再生可能エネルギー導入を叫んではいけない
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
原発電力は化石燃料で代替できるが、その分、化石燃料の輸入金額は増加する
エネ研データ(文献2)から、原発事故の前後の2010年度と2011年度の火力発電用の化石燃料の種類別の使用量、同輸入CIF価格、およびそれら両者の値から計算される発電用化石燃料輸入金額、さらには、両年度の火力発電量を表1 に示した。ただし、化石燃料の種類別消費量のデータは、火力発電量について、全発電量の62.9% を占める一般電気事業者(電力会社)用のデータしか与えられていないので、この値について示し、電力合計に対する化石燃料輸入金額は、この値から外挿した概算値で示した。この表1に見られるように、原発事故後の原発電力量の急減(図1 参照)を補うための火力発電用化石燃料の輸入金額は、2010 年度と2011 年度の両年度の差額で2.97 兆円に増えたと概算される。さらに、2011 年度の原発発電量(101,762百万kWh)は、2010 年度の値(288,230百万kWh )の35.3 %になるから、これが、全量失われるとすると 化石燃料の輸入金額の増加は、約4.59 ( = 2.97 / ( 1 – 0.353 ) ) 兆円と推算される。これが、いま、電力会社が原発を再稼動できなければ大変だと訴えている化石燃料輸入金額の増加の値である。
しかし、表1 に見られるように、2011年度の原発電力減少分の代替火力発電用燃料の主体が、輸入価格の高い石油とLNGになっていることに注意する必要がある。表1 に示したデータから各燃料別の発電コスト(燃料費)およびこのデータから各燃料の発電量基準の使用比率を用いて計算した2010、2011 両年度の発電コスト(全燃料)の試算値を表2 に示した。この表2 のデータを用いて、もし、2011年度の化石燃料の種類別使用比率を2010年度と同じにできたと仮定して、化石燃料の輸入金額の増加分を試算してみると、
- (火力発電合計の電力増加量(表1 の3)から)135,640 ×106 kWh)
- ×(発電コスト(全燃料)8.20 円/kWh ) = 1.11 兆円
となる。この値から、原発ゼロの場合の値を試算してみても1.72 ( = 1.11 / ( 1 – 0.353 ) )兆円となり、大幅な減額が可能となる。また、もし、増加分を全て石炭火力に頼ることができたとしたら、表2 から、発電コスト(燃料費= 石炭)=3.96 円/kWh (2011年度の値)の値を用いた上記同様の計算から、2011 年度の増加分を概算すると、0.536 ( = 1.11 ×3.96 / 8.20 ) 兆円、さらに原発ゼロの場合でも0.828( = 0.536 / ( 1 – 0.353) ) 兆円で済む計算になる。
いま、原発ゼロ社会を目指し、2010年度の電力会社の発電量合計 821.992百万kWhを5 % 節電(2011年度の実績4.5 % 減から)するとして、この分を同年の原子力発電量 288,230百万kWhから差し引いた代替火力発電量は、247,130 ( = 288,230 -821,992 × 0.05 ) 百万kWh と計算される。この値に、2011年の発電コスト(全燃料)8.20 円/kWh をさらに2割増(値上がりを予想して)して概算した化石燃料の輸入金額は、
- (247,130 百万kWh)×(8.2 円/kWh)× 1.2 = 2.43 兆円
程度になる。この場合も、石炭火力に依存する場合には、1.17 ( = 2.43 ×3.96 / 8.2 )兆円程度と計算される。これは、石炭火力の発電コスト(燃料費)が、表2 に示すように、石油の1/3.5 程度、LNG の1/2.4 程度(2011年度の値)で済むからである。
表1の1 ) に示すように、2011年度の火力発電量増加分を大きく高価な石油に依存せざるを得なかったのは、現有発電設備容量の不足から、休止中の旧式の石油火力発電設備を利用せざるを得ない事情があったためとも考えられるが、2000年代以降、地球温暖化対策としてのCO2 排出削減のために、石炭火力発電設備の新設を事実上認めないなど、その利用を抑制するエネルギー政策が、経済性を無視して進められてきたためと考えてよい。
表1 火力発電用化石燃料種類別消費量、同輸入CIF価格、化石燃料輸入金額、火力発電量の値、2010年度、2011 年度 (エネ研データ(文献2)を基に作成)
1)一般電気事業者用化石燃料種類別消費量 (千t );
石炭 | 重油 | 原油 | LNG | |
2010 年度 | 51,017 | 6,299 | 4,759 | 41,743 |
2011 年度 | 49,159 | 11,825 | 11,567 | 52,870 |
増加比率*1 | 0.964 | 1.88 | 2.43 | 1.27 |
2)化石燃料種類別輸入CIF 価格 ( 円/t 、円/kℓ)*2
石炭 | 重油 | 原油 | LNG | |
2010 年度 | 9,818 | 45,900 | 45,399 | 50,299 |
2011 年度 | 11,303 | 62,328 | 56,683 | 64,943 |
増加比率 | 1.151 | 1.357 | 1.249 | 1.291 |
3)化石燃料輸入金額 (億円)
2010 年度 | 2011 年度 | 増分 | |
一般電気事業者用*3 | 31,604 | 53,818 | 22,214 |
電力合計概算推算値*4 | 50,216 | 79,929 | 29,713 |
4)火力発電量 (百万 kWh )
2010 年度 | 2011 年度 | 増分 | |
一般電気事業者用 | 485,424 | 610,670 | 125,246 |
電力合計 | 771,306 | 906,946 | 135,640 |
- *1;
- (2011 年度の値)/(2010 年度の値)として求めた
- *2;
- 石炭、LNG; 円/t、重油、原油;円/kℓ
- *3;
- 各化石燃料種類別の消費量の値1 ) に、同輸入CIF価格 2 ) の値を乗じた値を、合計して求めた
- *4;
- 一般電気事業者用の化石燃料輸入金額の値に3) の一般電力事業者用と電力合計の発電量の比率を乗じて概算した
表2 一般電気事業者用火力発電用燃料種類別の発電コスト(円/kWh)の試算値、2010年度および2011年度 (エネ研データ1)を基に作成)
燃料種類別発電コスト(燃料費) | 発電コスト (全燃料)*1 |
|||
石炭 | 石油*2 | LNG | ||
2010 年度 | 3.44 | 10.89 | 7.30 | 6.47 |
2011 年度*3 | 3.96 | 13.90 | 9.43 | 8.20 |
- *1;
- 各燃料別の発電コスト(含設備費)と各燃料の発電量基準の使用比率 %(2010 年度の値:石炭 30.39、石油 9.67、LNG 59.93、)に按分して計算した
- *2;
- 石油として、重油と原油の値の合計
- *3;
- 2010 年度の値から、核燃料の輸入CIF 価格を補正して求めた概算値