電力供給を支える現場力④

54の瞳 -中国電力 隠岐営業所27名が見守る電力設備-


国際環境経済研究所理事・主席研究員

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 しかし、年に一度のこの作業の目的は、単に照明の取り替えにとどまらない。こうした作業を平時にやっておくことで、緊急時の作業の訓練にもなると考えているそうだ。月輪所長は「緊急時にどれだけ的確な対応を出来るかが、自分たちの価値」と言い切る。そのためにはこうした平時の訓練に地道に取り組むことはもちろん、地域の皆さんとのコミュニケーションも重要だという。その言葉が実感させてくれたのは、航空障害灯取り替えの現場まで連れて行ってくれたタクシーの運転手さんとの会話だった。
 台風、降雪等によって知夫里島で電気設備に事故が発生した場合には、隠岐営業所からチャーター船で駆けつける。しかし車を運ぶことはできないので、島内での移動はタクシーに頼らざるをえない。時には朝3時、4時という時間に叩き起こされることもあるが、「俺達のために来てくれてんだもん」とむしろその復旧作業に関われることが誇らしげですらあった。平時から自分たちでもできることはできるだけやっているそうで、村の有志で支障木の伐採をしたエピソードなどをとくとくと語ってくれた最後に、ポツリと「こんな600人しかいない島、放っとけと思われても仕方ない。交通だっていろんな行政サービスだって効率化していってしまう。その中で中電さんは本当によくしてくれる。おかげでここにまだ住んでられるんです。」と言った。

作業を終えてホッとした表情の5人。
右から小林さん、野田さん、平川さん、三谷さん、大原さん

 電力システム改革の議論が進んでいる。現在の改革方針の中ではユニバーサルサービスは維持する方針が示されたようだが、自由化されれば本来、こうした社会福祉政策的意義を電力事業者に負わせることはできなくなる。実際隠岐営業所でも,燃料費を含め必要となるコストは電気料金収入を上回っており,市場メカニズムに委ねれば、事業見直しの対象とせざるを得ないだろう。
 電気料金審査専門委員会では、遠隔地に住む需要家に多額の送配電コストがかかるというなら、それを料金に転嫁して発電所の近くに移転することを促すことはできないのか、と主張する委員もいたやに聞く。経済学的には正しいのだろうが、この考え方が国民的コンセンサスを得ているとも思えない。電力は国の経済の血液であるからこそ、常により良い事業形態を模索し続けることは当然に必要だ。しかし、「国の経済の血液」という言葉を本当に実感して議論がされているのだろうか?電力の設備が全て地中に埋まって見えなくなっている都会の真ん中で議論せず、たまにはこうした電力供給の現場をみてほしい。隠岐の島では、総勢27名、54の瞳がまっすぐに真面目にその電力設備を見つめ続けている。

島からの帰路、フェリーの2等船室で早速今日の作業の見直しをする小林さん。

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