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電力供給も十分にない日本経済はそれでも世界最強なのか


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授


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 書店の経済書のコーナーには、日本経済について楽観視する書籍が山積みされている。「日本経済は世界から羨ましいと言われ」るほど「最強の経済」らしい。むろん、悲観論の本もあるが、最近は楽観論が圧倒的に棚の場所を占めている。エネルギー関係の企業に勤務されている方が、楽観論の書籍を何冊か買ったと言われていた。こういう本を読むと安心するということだ。
 楽観論を述べる本には、いくつか特徴がある。例えば、日本の国の借金は実は大きな問題ではない。あるいは輸出が経済に占める比率は小さいので、製造業が果たす役割は小さいというものだ。データも示しているが、かなり恣意的にデータを利用している。客観的にみれば、一人当たり国内総生産(GDP)世界36位(米国CIAのデータ)、国際競争力世界27位(スイスIMDのデータ。ちなみに韓国と中国は22位と23位)で、節電をしなければ冷暖房のための十分な電気もないという国が羨ましがられ、世界最強であるはずがない。
 例えば、日本の借金だ。既にGDPの2倍を超えているが(IMFによると、2012年にはGDPの2.4倍に迫っていると推測されている)、日本は資産も保有しているので大丈夫との楽観派の主張だ。確かに日本は資産を保有している。IMFは保有資産を考慮した純負債額も計算しているが、日本の借金額はあまりに大きく、保有する資産を差し引いたネットでも借金は断トツ1位だ。図の通りだ。
 資産があるから大丈夫とはとても言えない。なかには、国は借金で公共投資をしている。道路、橋などの資産が残っているから大丈夫と主張する著者もいる。無茶苦茶な理屈だ。企業の例で考えれば直ぐに分かる。企業が借金をして工場に投資した後に、工場という資産があるから会社は大丈夫と主張できる訳がない。工場を売っても投資額が全額戻ってくるはずはない。借金が返せなければ倒産するしかない。国が企業と違うのは、税率をいくらでも上げることにより収入を得ることができることだ。倒産はしないが、国民は大変なことになる。
 製造業のGDPに占める比率が小さく、日本はもの作りの国ではない。日本の輸出の金額は大きくはないと主張するのも、この種の本の共通する点だ。日本のGDPに占める製造業の比率は20%弱だ。中国、韓国の製造業の比率より低いと主張している著者がいる。当たり前だ。学校で経済が発展するにつれ、農水産業から工業、やがてサービス業に経済構造は変わると習った。中国、韓国はまだ発展途上にあるというだけの話だ。
 主要先進国のなかでみれば、日本とドイツの製造業のGDPに占める比率はずば抜けて高い。フランス、英国のほぼ2倍ある。輸出の金額が内需との比較では相対的に大きくないという主張も当たり前だ。日本は世界第10位の人口1億2700万人を抱える消費大国だ。ドイツの8200万、英国6300万、フランス6600万と比較すれば圧倒的に大きな内需を持っている。輸出の絶対額を世界の中で見れば第4位だ。内需との比率ではなく絶対額の持つ大きさで議論すべきだ。輸送機、電機、化学、鉄鋼などを主体にした70兆円の輸出が失われればインパクトは極めて大きい。
 英国のように金融、IT分野がGDPに占める比率が高ければ、それで食えるかもしれない。しかし、日本はそうではない。製造業の生産性を高め、新興国が直ぐには追いつけない技術を基に輸出を通し国内の雇用を維持し付加価値を作りだすしかない。
 そのためには、電力供給が必要だ。電気がなければ製造業が新しい工場を日本で作ることはないだろう。工場の設備更新も躊躇するだろう。電力の保証のない日本より、工業団地に優先的に電力供給を行っている新興国で工場を建設するほうがエネルギー供給面のリスクは少ないと考える企業が出てくる。
 日本経済の状況は、世界最強などと言える状態にないことは明らかだ。楽観論で安心していると、日本経済はその地位をさらに低下させることになる。電力供給に不安がある国は先進国のなかでは日本だけだ。満足なインフラが保証されなければ先進国とは言えない。



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