電力改革、電力料金は下がるのか

アゴラチャンネル報告


Global Energy Policy Research

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エネルギー研究機関GEPR(グローバルエネルギー・ポリシーリサーチ)からの転載。)

エネルギー・環境問題の「バーチャルシンクタンク」であるグローバルエナジー・ポリシーリサーチ(GEPR)を運営するアゴラ研究所は、インターネット上の映像配信サービスのニコニコ生放送で「アゴラチャンネル」を開設して、映像コンテンツを公開している。3月15日はエネルギー研究者の澤昭裕氏を招き、池田信夫アゴラ研究所所長との間で「電力改革、電力料金は下がるのか」という対談を行った。

澤氏は元経産官僚であり、現在は経団連21世紀経済研究所の研究主幹、NPO法人国際環境経済研究所(IEEI)の所長などを務めている。最近では著書『精神論抜きの電力入門』J(新潮新書)がエネルギーフォーラム賞(2012年)を受賞した。(池田信夫氏の同書のアゴラでの書評「願望ではなく現実から出発するエネルギー政策」)。

福島原発事故の後で東電批判が強まり、電力改革が突如浮上。電力会社に地域独占を与えた日本の電力供給体制を、「電力自由化」の名目で変えようとしている。この改革は国民のためになるのだろうか。

猪突猛進の危うさを含む

民主党政権下の2012年7月に、経産大臣の諮問機関である電力システム改革委員会は、これまでの地域独占の見直しなどを提言する「電力システム改革の基本方針について」を公表。さらに自民党への政権交替後の13年2月に発表された「電力システム改革専門委員会報告書」では、「1・選択、料金、電力事業者の行動の自由化など小売りまでの自由化」「2・発電の自由化」「3・送配電の自由化、つまり地域独占の見直し」などが打ち出された。

民主党政権下で始まった電力自由化がほぼそのままの形で継続していることに、二人は「意外だった」と感想を述べた。そして改革案は、現時点では「猪突猛進と言えるもの。決めるべき事が決まっていないし、立ち止まって慎重に考えなければならないこと多すぎる」と、澤氏は指摘した。

澤氏は経産省在職時代には自由化を推進する立場に立って、政策を進めることが多かった。しかし電力の場合は「市場原理を導入することは賛成だが、現状を性急に変えることには慎重であるべき」という。制度作りの失敗によって引き起こされる停電や料金値上げによる社会混乱のコストが大きすぎるためだ。

これまで電力会社は、地域独占を与えられる代わりに供給義務を課せられた。改革案では、その供給義務の扱いは明確ではない。現時点で震災前に電源の3割を供給してきた原子力の大半は止まったままで、再稼動の先行きは不透明だ。この中での自由化は、原発停止で始まった電力会社の経営不安を一段と深刻にしかねない。

電力自由化とは「電力会社の経営に国が関与しないこと」を意味する。今の形の自由化では競争相手がいないため、強い電力会社が自由に価格を決められるようになってしまう。特に代替策のない家庭向け電力料金が上昇するだろう。また安定供給、電力価格上昇の可能性、さらに原子力の未来などの論点を改革案では精緻に検証していない。委員会は電力自由化の時期を明言しなかったが、「論点を整理しないと混乱のみが起こるでしょう」(澤氏)という。

感情論が悪影響を与えていないか?

二人が揃って危惧したのは、電力改革を語る際に「原発事故を起こした東電、そしてそれと同じ電力会社はけしからん」という感情論が、政策論の中に入り交じっていることだ。そして日本ではありがちだが、「正義」と「悪」で政策論を語る。「民主党政権での電力改革は必要性に迫られてというよりも、『悪い電力会社を懲らしめる』という民主党の政治家のパフォーマンスから始まったように見える。安く、安全に、安定的に電力を使うことが、目的であるべきだ」(池田氏)という。

経産省の中にいた澤氏には、「経産省と電力会社が癒着しているので自由化しなければならない」という紋切り型の主張に戸惑う面があるという。「経産省は時期と、担当者によって考えが違うが、基本的には電力自由化を主張し、地域独占を主張する電力業界と対立することが多かった」そうだ。

「経産省の電力政策をめぐる行動がおかしい。何が起こっているのでしょうか」と池田氏が疑問を示した。澤氏は詳細を分からないとしながらも、2回の政権交代とそして原発事故の後で「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」の状態、つまり「政治家の意向と世論を気にしすぎになっている」と古巣を分析した。

かつて行政の現場で追求された、論理的整合性や継続性で、官僚は政策を練らなくなった。そして原発事故の後、民意と政治がエネルギー政策を左右した。しかも事故の後で経産省は叩かれた。「現役官僚が戸惑い、萎縮する事は分かるが、政治の意向だけを忖度(そんたく)すると、何もできなくなるし、政策案もゆがんでくる。政治家と国民が議論できる正しい材料を作り上げてほしい」と述べた。

一方で、二人は電力自由化のメリットも指摘した。電力会社の経営の自由度が増し、ガスなどと合わせた総合エネルギー企業が誕生するかもしれない。そして競争が実現すれば、それは消費者が価格低下や多様なサービスから利益を得られる。「電力のようなインフラ企業は消費者サービスが苦手だから、サービス企業と組むことになるだろう。いろいろな可能性が開かれ、電力会社にも、消費者にも、メリットが産まれるかもしれない。しかし、それは制度設計次第だ」(澤氏)という。