なぜ今、電力システム改革を行うのか?

仙谷由人「エネルギー・原子力大転換:電力会社、官僚、反原発派との交渉秘録」


Policy study group for electric power industry reform

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 結果として電力システム改革を進めるためにも、当面は原子力を活用していくことが必要になるから、(B)、(C)を認めれば仙谷氏の論点(D)もその通りということになる。

 その認識の下で、「原子力国有化」という主張(E)が導かれる。官民共同出資の原子力会社に国内の原子力発電所を集約するには、仙谷試案の言うようにJパワーを含む10電力会社が持株会社に移項することは必須条件ではないものの、持株会社化を「てこ」に発送電分離の一形態である送配電部門の「法的分離」が実現されることも事実である。

 総括すると、仙谷試案の「原子力国有化と電力システム改革」は、絶対唯一の案という必然性は欠くものの、短中期的な解決が急務な①~③の政策課題を同時達成する現実的な案であることは間違いない。加えて、「今、なぜ電力システム改革なのか」という問いに対しても、この仙谷氏の主張は電力システム改革専門委員会報告書よりも遙かに説得性に富んでいると思われる。

 仙谷試案は、おそらく官僚の協力も得て作られたものだから、政府の電力システム改革議論がここまで「法的分離」を軸に進められてきたことも頷ける。

 ただし仙谷氏の試案の目的が①~③の同時達成であったにもかかわらず、政府が電力システム改革専門委員会により、②(電力システム改革)の検討のみを先行させる現状には問題がある。電気事業連合会の「発送電分離は原子力再稼働・エネルギー政策動向・事業環境の見通しが明らかにならないと判断出来ない」との主張は、②の議論だけが先行することへの懸念であろう。

 電力システム専門改革委員会の場でも第11回会合では伊藤敏憲委員がそれまで論点として無視されていた①と③の懸念を金融業界の視点から取り上げたわけだが(前回コラム「いま決める前に」)、専門委員会での議論は深まらなかった。その点に関し、専門委報告書は「電力システムが直面する構造的な変化の下で電力供給の効率性・安定性を確保するには、電力システム改革以外の他の政策的措置が必要となる可能性がある」などとするものの、その程度の指摘で論点を逸らして済む話ではないだろう。全面自由化を所期の工程で進めたいのであれば、政策変更に伴って生じるストランデッドコスト補償の問題、さらには電気事業の財務リスク懸念払拭のための制度的手当の検討等を包括的に開始することが、国民利益のために必要だ。

 他方、電気事業者にも課題がある。原子力規制強化による事業リスク増大などにより、①~③の同時解決が早期に求められる現状において、当事者の電力会社が「懸念があるから判断できない」と躊躇するだけでは、先に進むことができない。電気事業連合会も仙谷案への対案を自ら提示すべきではないだろうか。

『エネルギー・原子力大転換:電力会社、官僚、反原発派との交渉秘録』 
著者:仙谷 由人(講談社)
ISBN:978-4-06-218105-1

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