ドイツの電力事情⑦ 電気料金の逆進性―低所得層への打撃―
竹内 純子
国際環境経済研究所理事・主席研究員
そして、我が国におけるもう一つの電気料金上昇要因として、燃料費の増加がある。これまで原子力発電によって発電されていた電気(2,745億kWh)を火力発電により代替すると、化石燃料の価格変動や為替レートにもよるが年間3〜4兆円の国富が流出すると言われており、実際11年度日本は約4兆4千億円という過去最大の貿易赤字となった。一般財団法人日本エネルギー経済研究所が貿易統計等に基づいて行った試算によれば(http://eneken.ieej.or.jp/data/4573.pdf)、2010年に原子力発電により発電された電力を全て火力で代替すると2015年までに累計13兆円、2020年までには同約24兆円の国富が流出するという。この燃料費は電気代により回収せざるを得ないが、平均で3円/kWh上昇するとすれば、月間300kWh使用の一般家庭で約1,000円/月、25万kWh使用の中規模工場では約75万円/月、240万kWh使用の大規模工場では約720万/月の負担増になる。
先ほど述べた再生可能エネルギー全量固定価格買取り制度による賦課金、燃料費増による電気料金上昇はダブルパンチとなって消費者にのしかかる。そして消費税増税も行われる。1月14日の与党税制協議会では消費税を8%に上昇させるタイミングでは、食料品など生活必需品に対する軽減税率の導入が見送られる方向であると報じられている(日本経済新聞1月15日朝刊一面)。消費税と電気料金は全く別の議論ではあるが、全体を俯瞰し、国民生活、特に低所得層にとってどのような影響を与えるのかを慎重に見極める必要がある。イギリスでは収入の10%超が燃料費に使用される場合を「Fuel poverty(燃料の貧困)」と定義し、エネルギーコストの上昇をもたらすような施策が打ち出されると、すぐに所得分配上の効果を計算し貧困および高齢者世帯と相関性の高いこの「Fuel poverty」にどのような影響があるかをメディアも大きく報道する。しかし、日本においては消費税増税と電気代の上昇の二つが全く別個に議論されているように思えてならない。こうした「痛み」は架空の財布に対する想定の議論であるうちは軽く扱われがちであるが故に、改めて電気料金の持つ基本的な性格である逆進性について注意を喚起したいと思う。
ケルン経済研究所報告書(独語)
①プレスリリース記事(報告書サマリー)
②報告書本文
③報告書(②)で参照している図表