混迷する英国のエネルギー政策(3)


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 英国のエネルギー政策に関しては、再生可能エネルギー補助のレベルや将来のエネルギーミックスにおけるガスの役割等についてキャメロン首相、クレッグ副首相、オズボーン財務相、デイビー・エネルギー気候変動相の間で激しい議論があり、11月23日にようやく妥協が成立したところだが、その底流をなす連立政権内部の保守党・自民党の対立が収まったわけではない。

 本日(11月30日)のFTに「PM rejects climate experts for top job」という記事が出た。
英国のエネルギー気候変動省の次官(Permanent Secretary)ポストにノミネートされていたデヴィッド・ケネディ氏の任命をキャメロン首相が拒否したというものだ。

デイビーエネルギー気候変動相
ケネディ気候変動委員長
キャメロン首相

 ケネディ氏は世銀でエネルギー戦略に関与し、欧州復興開発銀行でインフラ開発に関与してきた人物であり、過去4年にわたって気候変動委員会の委員長を務めてきた。昨年10月にウオーレス次官が辞任したことに伴い、2006年のスターン・レポートを執筆したスターン卿を含む選定委員会でその後任が検討されてきた。その結果、「この分野で多年にわたり最も経験があり、次官ポストに最適」として選定されたのがケネディ氏であった。彼の選定はデイビー・エネルギー気候変動大臣が承認し、ダウニング10番地の承認を待つばかりであった。担当大臣が任命に同意したことから、首相官邸の承認は単なる形式と思われていたが、キャメロン首相自身がこの任命に待ったをかけたわけだ。

 気候変動委員会は、2008年の気候変動法に基づいて設置された独立諮問機関であり、英国の炭素予算(2008-12、2013-17、2018-2012)の提案を含め、英国の気候変動政策の方向性に大きな影響力を行使してきた。したがって同委員会のヘッドを務めてきたケネディ氏の任命拒否は、英国のエネルギー・気候変動政策の今後についても様々な含意を持つものと思われる。デイビー大臣の洋上風力を含むグリーンエネルギー政策に懐疑的な保守党の国会議員に対する懐柔策であるという見方もある。即ち、エネルギー政策をめぐる保守党・自民党は依然として非常に強いということだ。

 デイビー・エネルギー気候変動大臣は「次官ポスト選定プロセスは終了したが、任命をしたわけではない。できるだけ早期に再度の選定プロセスを行う」とコメントしているが、内心、腸が煮えくり返る思いであったろう。

 今やエネルギー政策は英国政府内で最も議論が対立した分野となっており、同じくエネルギー政策が大きな政治イシューとなっている日本にとっても、引き続き目が離せない。

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