卸電力市場活性化議論に持続性確保の視点を


Policy study group for electric power industry reform

印刷用ページ

広域メリットオーダーが実現しないわけ:電力システム改革専門委員会事務局の見解

 電力システム改革専門委員会の事務局、つまり資源エネルギー庁は、現状広域メリットオーダーは実現していないとの認識に立っている。その背景について、第3回電力システム改革委員会における事務局提出資料では、「一般電気事業者による卸電力取引所活用の状況と限界」と題して、次のように説明している。

<以下引用>
【取引所からの「買い」】
○一般電気事業者は、「原則として、地域内の需要は自社の発電設備でまかなう」との考え方。総括原価方式の下で、自社設備の固定費は事前に想定した利用率で原価に織り込み済みであるため、「自社設備の可変費>取引所価格」となる場合のみ、調達インセンティブが生ずる。
【取引所への「売り」】
○発電部門としては、固定費は自社需要向けに計上済みであるため、可変費を超える価格で売却できれば収益が出るが、一般電気事業者は別途、小売分野で競争しているところ、自社の需要家に対するコスト計上との関係上、固定費を上乗せした額で売り入札を行っている事業者が多い。仮に、可変費ベースで売却すると、結果的に競争相手にシェアを奪われると考えるのは自然であり、実際の入札にあっては、このような行動が過半を超える。
→ これは、発電と小売の両方を有する株式会社である一般電気事業者にとっては、経済合理的行動ともいえ、仮に、取引所活用による流動性向上を抜本的に拡大しようとする場合、電力会社による「自主的な取組」を促すだけでは限界があり、何らかの制度的枠組みの構築を検討する必要があると考えられる。
<引用終わり>

 上記を先ほどの電気事業者A、Bの例に即して説明する。
 スポット市場において可変費ベースの取引が行われていると、図3のようになる。電気事業者AはG3の可変費よりも安い供給力が得られれば、G3の出力を減らしてコストを削減できるので、買値は11円/kWh-α、電気事業者BはG6の供給余力を可変費を超える価格で売却できれば収益が出るので、売値は9円/kWh+αとなり、取引が成立する。

(図3)

 しかし、図4のとおり、電気事業者Bの売値が、可変費9円/kWhに固定費(資本費、運転維持費等)を加算した13円/kWh+αとなっていると、取引は成立しない。日本の現状は、このようになっているケースが多いとの指摘である。

(図4)

 このようになる理由は、事務局資料によると次の通りである。
 電源G6から見れば、可変費を超える価格で売れれば収益が出るので、可変費+αで売るインセンティブがある。
 しかし、電気事業者Bは、自社の需要家に対しては、固定費込みの価格で電源G6の電気を販売している。
 したがって、電源G6の電気をそれよりも安い可変費ベースの価格で売ってしまえば、それを購入し転売する新電力に自社の需要を奪われる可能性がある。

 つまり、事務局は、広域メリットオーダーが実現するには、スポット市場において可変費ベースの取引が成立する必要があるが、そうなっていないのは、発電と小売を併営する営利企業である一般電気事業者が、自社の利益を確保するために、つまり小売分野で需要を奪われないようにするために「経済合理的行動」をとっているから、という認識と理解できる。その上で、可変費ベースの取引を実現するために「何らかの制度的枠組み」つまり強制的な制度の検討が必要、と指摘している。具体的には、スポット市場において、一般電気事業者に可変費ベースの売り入札を要求することが念頭にあるのだろう。また、電力システム改革専門委員会では、ピュアな市場原理に則って「可変費を超える価格で売れれば利益が出るのだから、可変費ベースで売るべき」といった意見も経済学者である委員から出ていた。