エネルギー政策における「エネルギー源のベストミックス」
その中に、当面、自然エネルギーは入ってこない
久保田 宏
東京工業大学名誉教授
もう一つ、エネルギー政策での「ベストミックス」を考える場合に、いま、原発代替の電力の問題がエネルギーの問題にされてしまっている事実にも注目しなければならない。実は、現状の日本経済を考えるとき、エネルギー資源の主体を占める化石燃料のほぼ全量を輸入している日本の場合、この輸入金額を如何にして最小化するかが、「エネルギー源のベストミックス」を求める際の問題にならなければならない。エネルギー・経済統計データ(文献2)から、エネルギー資源量を表わす、一次エネルギー消費(電力)、同(電力以外)、および同(合計)での、エネルギー源種類別の利用量、および、それぞれの比率を図示すると、図1~3(文献2 のデータを基に作成)に示すようになり、一次エネルギー消費(量)で表わされるエネルギー源の半分以上が(電力以外)として消費されている。最終的には、一次エネルギー消費(合計)のエネルギー源種類別のベストミックスが問題にされるべきであるが、図に示されたような現状(2010年)のデータから、将来の「ベストミックス」を想定し、しかも、それを目標数値で表わすことは、科学技術の視点からは、不可能に近い、非常に難しいことだと認識すべきである。
いま、敢えて、澤の主張する(文献3)経済性最優先を目的とした場合の日本の将来、と言ってもせいぜい10年先ぐらいの「エネルギーのベストミックス」へのアプローチを考えてみると、それは次のようになる。化石燃料について、その種類別のエネルギー利用特性(例えば電力として使うのが有利か、熱として使うのがよいか)に応じて、それぞれを使い分けて、総合的な経済性を判断して、その輸入金額の最小化が追求されるべきである。一次エネルギー消費(電力)については、上記したように、原発代替の石炭火力の利用とともに、現状の火力発電用の石油やLNGを、安価な石炭に変換する(注 参照)。一次エネルギー消費(電力以外)では、現状で71 %と大きな比率を占める(図2参照)高価で資源量に制約の大きい石油の消費を低減する方法として、電気自動車の利用、普及がある。しかし、その量的導入を可能にするためには、省エネ液体燃料車との比較で、その利用が消費者にとって経済的に有利になることが条件となる。再生可能エネルギーとして開発が進められてきた自動車用バイオ燃料の出番はない。いずれにしろ、図3 に示す現状からも判るように、経済優先の「エネルギーベストミックス」の追求のなかでは、既存の水力以外の自然エネルギー(国産の再生可能エネルギー)の出番は当分はこないと考えるべきで、その導入促進のための政策「固定価格買取(FIT)制度」は、可及的速やかに廃止すべきである。
以上が、将来的にもエネルギー資源の主役を担うであろう化石燃料を輸入に頼らざるをえない日本の「エネルギーベストミックス」へのアプローチの方策である。これは、純粋に科学技術の検討課題である。言い換えると、いま、大きな問題になっている原発比率の問題を含め、新しいエネルギー政策において、地球温暖化対策として要請されてきた自然エネルギーを、政治の都合で、政策的に導入することは、国益を損ねるだけのことだと厳しく認識すべきである。
注;現状(2010年度)で、火力発電の燃料費は、石炭 1 に対し、石油 2.91 LNG 1.98 である。発電コストに対する燃料費の比率を石炭で 0.6、石油、LNG で 0.8 とすると、発電コストは、石炭 1 に対し、石油 2.2、LNG 1.5 と概算される。
- 引用文献;
- 1.
- 久保田 宏;科学技術の視点から原発に依存しないエネルギー政策を創る、日刊工業新聞社、2012年
- 2.
- 日本エネルギー経済研究所編;EDMCエネルギー・経済統計要覧2012、省エネルギーセンター
- 3.
- 21世紀政策研究所研究プロジェクト;エネルギー政策見直しに不可欠な視点~事実に基づいた冷静な議論に向けて~、報告書、2012年3月