発送電分離の正しい論じ方


Policy study group for electric power industry reform

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「設備余剰は七難隠す」

 もう一点、海外の先行事例をみる場合、「設備余剰は七難隠す」であることに注意する必要がある。各国の電力市場改革の経緯をみると、どこの国も市場設計の不備はそれなりにあり、見直し・試行錯誤を繰り返している。日本でもおそらくそうなるだろう。そんな中で、カリフォルニアが電力危機まで引き起こしたのは、制度の不備が他国の事例よりも顕著だったのかもしれないが、加えて供給設備に余裕がない中で自由化を敢行したことが大きかったのではないか。表1に各国・地域の電力自由化開始時期における発電設備率(存在する発電設備量を最大電力で除したもの)を示したが、カリフォルニアだけが需給がタイトな中での自由化敢行だったことが分かる。対照的に欧州各国は相当な余剰設備を抱えた中での自由化であったので、多少市場設計に不備があっても、総じて危機的状況には至っていない(最近では英国、ドイツ、テキサス州等、余剰設備と言う過去の遺産を食いつぶしつつある事例も出始めているが)。

表1
(出所)海外電気事業統計、米DOE/EIA、カリフォルニアエネルギー委員会、電気事業便覧
(注)設備率=電気事業者発電設備の銘板容量合計/最大電力
テキサス州は、銘板容量の代わりに夏季供給力を使用(値は小さめになる)
カリフォルニア州の設備率は、データの制約により2000年のデータ

 翻ってわが国は、原子力発電所の停止で、全国的な電力不足の状態にある。今喫緊の課題は、安全性が確認された原子炉の再稼働を着実に進めていくことは勿論、エネルギー政策の中で原子力発電の位置づけを明確化するとともに、官民のリスク・責任分担について一定の方向性を出し、安定的な電力需給を回復させる見通しを示すことだ。少なくとも、電力需給がタイトな中で、電力システムや電力市場のあり方を大きく変えることは危険である。電力市場のあり方について、今後議論を深めていくにしても、実施時期はよくよく慎重に考える必要がある。

(参考文献)
第4回電力システム改革専門委員会 (2012年4月25日) 参考資料1-2 事務局提出資料
(以下のリンクのP18-20が、「送配電部門の中立性に疑義があるとの指摘(事業者の声)」に該当)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denryoku_system_kaikaku/pdf/004_s01_02e.pdf
電気事業の構造改革に関する経済性分析-わが国電気事業の費用構造分析-(電力中央研究所 2012年)
http://criepi.denken.or.jp/jp/kenkikaku/report/detail/Y11009.html
野口悠紀雄:計画停電を回避できる料金引き上げの目安は、3.5倍 (ダイヤモンド・オンライン2011年3月29日)
http://diamond.jp/articles/-/11673

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