電気事業は設備を作れば作るほど儲かるのか
電力改革研究会
Policy study group for electric power industry reform
第3の特徴は、自然独占性があること。
発電は、ベース需要には経済的な原子力や石炭火力、ピーク需要には素早く対応できる水力や石油火力、ミドル需要にはガス火力など、それぞれの特徴を活かした電源構成・運用を行うことが効率的・経済的であると考えられていた。加えて、予定外の電源トラブル、需要の急激な変動等に備えて、予備の供給力を一定程度確保することが、安定供給上必須である。発電については従来自然独占性があるとされていたが、最近ではそれについて疑問符がつけられ、電力自由化の議論が活発化してきた原因となった。
また送配電は、複数の事業者がそれぞれ設備を建設・所有した場合、重複が生じることから、地域ごとに単一の事業者が担うことが経済合理的である。さらに1つの事業者が発電と送配電を担う場合、一体的な設備形成と運用が可能となり、効率性・経済性が向上すると考えられてきた。このように、送電事業には自然独占性があることについては、広くコンセンサスがある。
この第3の特徴(自然独占性)から、電気事業には地域独占を認める一方で、供給者を選べない需要家保護のため、事業者に供給義務を課すと共に電気料金の適正を規制により担保してきた。電気料金の決定にあたっては、「原価主義の原則」、「公正報酬の原則」、「電気の使用者に対する公平の原則」が基本的な考え方となっている。この「原価主義の原則」と「公正報酬の原則」が「総括原価方式」への批判の対象だ。しかし、「かかる費用を全て料金原価に認める」のではなく、「あるべき適正な費用しか認めない」のであり、経営努力によって効率的な経営をおこなった状態での費用回収しか認めないことから、非効率な経営を行えば赤字になることもあるのである。
また、第2の特徴(設備産業)から膨大な設備の建設・維持等にかかる資金を資本市場から円滑に調達するためには、一定の報酬は必要である。例えば、電力会社が株式を発行する場合、株主からみた投資に対する期待収益率が一定以上になっていなければ資金調達することができないし、社債を発行して資金調達する場合もその利息の支払いが必要である。つまり、設備を運転・維持して電力供給を行うために毎年かかる経費の他に、電力会社には資金調達のためのコストがかかるのである。こういった資本市場の期待収益を公正報酬として認めることで、電力会社の資金調達を円滑化し、供給責任を果たすのに最低限必要となる設備への投資が確実に行われるようにしているわけである。そうした視点からは、むしろ総括原価方式は一定の合理性を備えていると言える。世上、「報酬=儲け」と解釈されて批判の対象になっている公正報酬の原則だが、これは儲けではなく、上述の通り実際には資金調達コストと言う方が近い。報酬という呼び方が誤解を招く原因になっているのである。
いずれにせよ、総括原価方式による電気料金決定は、市場の需給による決定と対極にある方式であり、電力事業者の誠実な経営情報の報告と規制当局の査定能力に依存することは指摘しておく必要がある。