発送電分離問題の再考②-1
英国事例に見るフェアの追求とその帰結
奈良 長寿
海外電力調査会調査部 上席研究員
需給調整は市場に委ねる
英国では、需給調整用電力は、系統運用者が相対取引や需給調整市場での取引において、サービスの提供を希望するすべての事業者や需要家から競争入札で調達する。特定の事業者にラストリゾートを義務付けることはない。SOであるナショナルグリッド社の担当者は、「英国の市場では、どの事業者も、十分な電源を確保するという意味での供給責任は負わない。我々は、入札された供給力の範囲で系統運用を行うだけである。電源が足りなくなれば価格が高騰する、それでも足りなければ停電するだけである」と淡々と語る。
これが意味するのは、発送電を分離して競争を導入するのであれば、「市場が機能するよう設計し、あとは市場に委ねなければならない」ということである。ここに非対称規制が入ると、制度のすべてに歪や矛盾が生ずることになる。
合理性を追求した英国のインバランス決済制度
この需給調整と関係が深いのがインバランス決済である。この制度設計の考え方には、競争とはいかにあるべきかについて考えさせられる点が多い。
インバランス決済とは、各事業者の契約量と計量値の差分を決済する制度であり、一般的にその価格は、当該時間帯において系統運用者が需給調整に要した費用をベースに算定することが望ましいとされる。ところが、ある発電事業者が100の過剰発電、別の発電事業者が100の過少発電を行ったとすると、それぞれが大きなインバランスを発生させているにもかかわらず、それぞれが打ち消しあうために、系統運用者には需給バランスの維持に係る費用が発生しない。
一方、ある発電事業者が非常に不安定な発電を行い系統運用者に多大な費用が発生したとしても、当該時間内の運用で帳尻を合わせればその事業者のインバランス量はゼロになり、コストの回収ができなくなるという不合理性が生じる。また、同じインバランスでも、結果的に系統の需給バランスを改善するインバランスもあれば、悪化させるインバランスもあり、これらに同じ価格を適用するのも合理的ではない。
このような問題への対処方法として、日本のように平均費用に基づいてインバランス価格を固定(料金表制)する方法も考えられるが、競争市場ではこれが市場を歪める要因となる。インバランス決済も電力調達手段の一つとなり、スポット価格がインバランス価格を超えると想定される場合には、多くの事業者が全量をインバランス決済する行動に出るからである。そうなるとスポット価格がインバランス価格で頭打ちとなり、「電力が足りない」というシグナルを市場に発しなくなるのである。
さらに、系統運用者が需給調整用として調達した電力は、同時に、すべての系統利用者の利益となるシステムバランス用(電圧調整や周波数調整)としての役目を果たすことも多く、両者のコストを正確に区分しないと不公平という問題も生ずる。
制度の内容は本稿では割愛するが、英国のインバランス決済制度は、このような問題意識の下に策定されている。市場化するためには、それに係るあらゆる制度について市場を歪めないように策定されなければならないのである。