東日本大震災が浮かび上がらせた電力インフラの弱点
二瓶 啓
国際環境経済研究所主席研究員
再生可能エネルギー導入と原発停止のバランス
最後に、供給のベース電力である原発の是非について述べる。だれもが期待する再生可能エネルギーの規模拡大はそう簡単にはいかない。製紙業界では温暖化対策の一環で、所有する重油焚き発電ボイラーに替えて廃材や廃棄物を燃料とするボイラーを積極的に設置してきている。日本製紙連合会加盟企業全体で、現在59基、総出力は業界総電力消費360万kWの11%にあたる40万kWに達したが、2002年から10年かかっている。ちなみに、遊休になった重油焚き発電設備のいくつかがこのたびの電力不足の応援に貢献している。
この例で示すように、原発の能力に相当する発電容量を確保するためには10年程度の時間が必要である。その間に大きな災害が起きたら大変なことになる。既設原発は貴重な国民資産を投入して設置した設備であり、少なくとも耐用年数期間くらいは運転するべきではないか。「万一のとき危ないから止めてしまえ」という気持ちはわからないではないが、即廃止は税金の無駄使いでありもったいない。
原発で保管している使用済み核燃料を含めて、核燃料をどこか人のいないところに持っていかなければ放射能の問題は解決しない。しかし、だれもそれを引き受けてはくれない。原発を止めても動かしても、万一の自然災害が起きた時に被る影響にほとんど差はない。一方で、原発を止めてしまい代替電力がなければ、電力不足で深刻な経済災害が起きる。ただし、今よりはるかに高レベルの安全対策が必要であるのは当然である。それを立案し指導するのが政府の仕事ではないだろうか。
休止している無傷の原発を再稼働させなければ、東日本の被害と経済的混乱を日本全体に拡散させてしまう結果になる。年末にかけて稼働中の原発が次々定期検査に入り停止する。定期検査後に運転再開が果たせなかったとしたら、来年の電力供給能力はもっとひどいことになる。
原発問題は中長期政策と短期的対策とを切り離して議論する必要がある。短期的には震災後の電力事情を考え、定期検査を終え安全が確認できた施設は1日も早く運転再開をするべきである。中長期的に原発をどうするかについては、早急に我が国のエネルギー政策を立て直して方針を決める必要がある。