東日本大震災が浮かび上がらせた電力インフラの弱点
二瓶 啓
国際環境経済研究所主席研究員
電力会社間の系統連系の実態
他方、電力会社相互の応援体制である系統連系については、どうなっているのであろうか。東日本と西日本で周波数が異なり、融通できる電力量は限られている。60Hzの中部電力側から東日本へ応援できる電力は、3カ所の周波数変換所を経由して100万kW、同じ50Hzの北海道電力から60万kW、合計160万kWであり、震災によって減少した発電能力の5%にも満たない。電力会社間の連系能力がもっと大きければ、計画停電のような事態にはならなかったかもしれない。東西の周波数の違いという電力供給構造の致命的な弱点が、計画停電のもう一つの原因と言ってよい。
図1、2に載せているが、煩雑なので表3に全国の系統連系とその能力を示す。同一周波数間の連系でも関西電力・北陸電力・中部電力の3社による連系ではループになって潮流制御が混乱するため、北陸と中部の連系は一旦直流に変換して位相を同期させてから融通するBTB非同期連系を採用している。これは、1999年に運用を始めている。
また津軽海峡水深300mの海底を250kV、 1000Aのケーブルで43kmを結ぶ北本(きたほん)連系、紀伊水道の海底を関電と四国電力を結ぶ阿南紀北連系も直流送電である。このうち北本連系線は2回線あるが、4月7日の深夜に発生した余震で青森側の上北変換所(青森県東北町)が被災、1回線が8日夜まで、もう1回線は9日早朝まで送電を遮断している。発電所だけでなく連系線や送電線にも十分な震災対応が必要である。なお、北本連系では、夏場は関東地区の冷房需要に合わせ北から南へ、冬は北海道の暖房需要で南から北へ送電する例が多いという。
表3に斜体字で示した設備は、今回の震災を契機に資源エネルギー庁が増強を検討している設備である。北本連系線の容量は120万kWに倍増するとしており、5月24日付けの北海道新聞によると、当面、90万kWへの増強が決定したとのことである。しかし、ルート選定から土地の取得を経て完成まで10年はかかるであろう。
実は、仙台市から盛岡市を経由して上北変電所まで、東北電力の500kVの超々高圧送電設備が完成し相馬双葉幹線と接続、6月下旬から運用を開始している。これにより、数年後に電源開発の大間原発(青森県大間町)や東電の東通原発(青森県東通村)が完成することと相まって、東電から北電まで50Hz地域の電力網は一段と安定に向かうはずであった。しかし、原発事故の影響で工事計画の遅れは必至であり、今は、先がまったく読めない状況になってしまった。
一方、3月23日の発表によると、中部電力は2014年末の完成予定で20万kWへの増強工事を進めていた60Hz側との連系の一つである東清水変電所(静岡県静岡市)の周波数変換装置の完成前倒しに加え30万kWへの増強を決定した。総工費は700億円とのことであるが、これも浜岡原発(静岡県御前崎市)の停止によって役に立つかどうかわからない。原発停止の問題は、代替電力をどう供給するかだけでなく、このような面にも影を落としている。
図2 中・西日本60Hz系超高圧電網と主要発電所
表中のFCとはFrequency Converter(周波数変換)、BTBとはBack to Back(背中合わせ変換 )の略。太字は直流送電、斜体字は今回の震災を契機に資源エネルギー庁が増強を検討している設備
表3 全国の系統連系とその能力