東日本大震災が浮かび上がらせた電力インフラの弱点
二瓶 啓
国際環境経済研究所主席研究員
一瞬にして3510万kWの発電能力を喪失
震災によって東日本は危機的電力不足に陥り、3月14日から始まった計画停電で、首都圏では一時、多くの人の通勤の足が奪われた。また病院などの医療業務では、人命に関わりかねない深刻な影響があった。筆者も、地震発生後1週間は往復2時間半歩いて通勤する羽目になった。私も含め、一般市民の東京電力に対する怒りとこれからどうなるのだろうかという不安は非常に大きなものであった。
しかし、3月11日に何が起きたかを冷静に見ると、電力会社の取れる手段はほかにはなかったということが理解できる。原発事故だけがニュースになりあまり報道されていないが、翌12日に復旧した発電所は、千葉県市原市にある東京電力五井のLNG火力と電源開発の磯子火力(横浜市)、山間部の水力系のみで、東北電力八戸3号石油火力(青森県八戸市)から東京電力東扇島1号LNG火力(川崎市)まで、一瞬にして3510万kWの発電能力が失われた。このなかに占める原発停止による影響は1237万kWで、全体の3分の1でしかない。これらの情報は電力各社が個々にホームページで公開しているが、残念ながら被害の全貌をまとめて示している情報はない。
今さらながらの感想であるが、この地震で柏崎刈羽原発や、東京湾岸に多数ある火力発電所にさらに大きな被害が出ていたら、あるいは震災が夏の電力需要期だったら、計画停電どころの話では済まなかったであろう。不幸中の幸いは、停止した東京湾岸の火力発電所のうち五井と大井(東京都品川区)は13日までに復旧したことである。大井発電所などは、敷地内がかなりの液状化被害を受けたなかで発電を再開した。
表1 東日本大震災の被災発電所と復興状況
東日本大震災では一瞬にして3510万kWの発電能力を喪失。長期間にわたって、電力供給に影響が生じた(単位:万kW)