グリーン雇用という「神話」


国際環境経済研究所前所長

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オバマ政権イチ押しのベンチャー企業も倒産

 一方、グリーンエネルギーに投資することは、イノベーションを通じて将来の経済発展に繋がるとの議論もある。しかし、ヒューズ教授は米国の太陽光発電の例を引用してこれを否定する。太陽光発電は米国の得意としていた電子装置産業及びその関連産業を基盤としており、加えてカリフォルニア州などは気候にも恵まれているため、太陽光発電の発展には最も適した条件を備えていた。しかし、その発展は長くは続かなかった。2005年までは米国の太陽光発電関連機器の輸出量は輸入量を上回っていたが、2008年には輸入量が大幅に増え、米国内に設置される太陽光発電機器の半分以上は輸入品となってしまった。中国やフィリピンなどからの低価格品の普及に伴い、米国製品は競争力を失ったのである。

 太陽光発電については、オバマ政権が多額の支援をしたベンチャー企業が最近、大きな負債を抱えて倒産、政治問題化している。確かにグリーンエネルギーの技術発展が市場での普及の要因である間は、技術革新を継続しながら産業を拡大し、雇用を増やすことができるかもしれない。しかし現実は、技術開発が一定のレベルに達するとコスト競争力が普及のカギとなり、継続的に雇用を拡大するのは不可能となる。特に再生可能エネルギー全量固定価格買取制度では、将来、買取価格が低くなっていくという制度設計となっており、イノベーションは進むどころかむしろ停滞するとの批判が強まっている。

 グリーンエネルギーへの投資あるいは野心的な温暖化政策において、多くの政治家や推進派は雇用の創出を理由に挙げている。経済が停滞していて、世の中に投資分野が見いだせないような状況下では、官僚や政治家が政策的に焦点を当てたいと思うのが自然だ。しかし、ヒューズ教授が指摘するように、雇用創出のみを指標として温暖化政策を評価すると誤った結論となってしまうことに十分注意しなければならない。グリーンエネルギーの推進の効果を経済全体の中で評価する場合には、直接的雇用創出効果とともに、雇用機会の変動に伴う摩擦的失業や電気料金の値上げによる雇用減少効果などのマイナス面も同時に考えて、ネットの効果を分析する必要がある。まさにフリーランチはないのだ。

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