50年後を見据えた世界のエネルギー・気候変動問題の解決策を
田中 伸男
国際エネルギー機関事務局長(※論考掲載時 現・(財)日本エネルギー経済研究所特別顧問)
IEAは「450シナリオ」を提言
地球温暖化を防止するためには、2050年までにCO2排出量を現在のレベルから半減させ、大気温の上昇を2℃に留める必要があるといわれますが、IEAでは温室効果ガス濃度を450ppmに安定化させるシナリオ(通称450シナリオ)を提言しています。この実現は簡単ではなく、二酸化炭素原単位(単位GDP当たりの二酸化炭素排出量)の改善率をこれまでの4倍に速める必要があり、省エネ、再生可能エネルギー、原子力、二酸化炭素分離貯蔵(CCS)、電気自動車など低炭素技術を総動員する必要があります。
今回の450シナリオは、COP15のコペンハーゲン合意における各国のプレッジ(誓約)が必要量に満たなかったことを受けて作成されました。一昨年の450シナリオよりも遠回りする分、1兆ドル余分にコストがかかり、2035年までに、新政策シナリオに対して13兆ドルの追加投資が必要になると見ています。二酸化炭素の価格も2035年に1t当たり120ドルになります。450シナリオの実現は、非常に難しくなったと言わざるを得ません。しかし実現できれば、石油需要の伸びを人類史上初めて止めることになり、エネルギー安全保障上も大きな価値があります。
カンクンのCOP16でIEAが主張したのは、気候変動交渉の国際合意を待つことなく、各国が今すぐ450シナリオの実現に必要な国内措置を取るべきであるというボトムアップ戦略です。各国は低炭素化の国内措置を大胆に進めることで、燃料節約の経済面やエネルギー安全保障上の「自国のメリット」を享受でき、地球大の課題の解決にも貢献できます。誰が何をやるべきかを450シナリオのなかで明らかにしており、例えば産油国においては炭化水素補助金の撤廃、中国では省エネやCCS、電気自動車開発、先進国は省エネ(特に米国)と再生可能エネルギー、原子力発電の普及などが重要です。