ウクライナのもう一つのエネルギー戦争
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2025年1月21日号)
2024年12月31日にロシアとウクライナ間の欧州向け天然ガス輸送契約が終了し、ウクライナ向けのロシア・ガスプロムからのガス供給もなくなった。今までも契約上はロシアからの直接供給はなく、EUからウクライナに天然ガスが逆流されていたことになっていたが、実際には大半のガスはロシアから直接供給されていた。
これからウクライナはノルウェー産ガス、米国のLNGなどをEU経由迂回し輸入することになるが、ウクライナ国内のガス価格は2倍になるとされている。日本も他人事ではない。ロシアはウクライナ経由のガスを他に輸出する手段を持たない。その分世界市場から供給が減少し、需給に影響を与える。
ウクライナ経由でロシア産ガスを輸入していた国境を接するスロバキアも、主としてLNGをEU経由で輸入することになり価格の上昇に直面している。スロバキアのガス供給の約3分の2を担っている国営ガス会社のガスの購入額は年間9000万ユーロ増加する。
ハンガリーと並びEU内の親ロシア派のスロバキア・フィツォ首相は、既にウクライナ向け軍事援助を停止している。昨年末にはクレムリンを訪問しプーチン大統領からロシア産ガスの供給延長の言質を取り付けたとし、供給が停止したのはウクライナが輸送契約を更改しなかったためと憤っている。ロシア産ガスの供給停止による損害約5億ユーロをウクライナが負担しなければ、報復としてスロバキア国内のウクライナ難民への支援とウクライナ向けの電力輸出の停止を検討すると発表した。
かつて電力が大きな輸出産業だったウクライナは、ロシアによる電力インフラへの攻撃を受けスロバキアからの電力輸入にも依存する状態だ。2024年1月から11月までの輸入量は24億kWh、ウクライナの電力輸入に占めるシェアは19%。スロバキアは欧州委員会との会談を踏まえ報復措置の実行を決めるとしているが(執筆時点では結論は出ていない)、またエネルギーが武器として使われることになるのだろうか。厳冬期の市民には大きな試練だ。