米の石炭火力廃止スピードに急ブレーキ
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2024年10月1日号)
2000年代後半のシェール革命は、米国の発電事情を大きく変えた。シェール層から採掘される天然ガスの価格は安く、天然ガス火力が、戦後長い間米国の発電量の約半分を担ってきた石炭火力の発電量を代替した。パイプライン利用の天然ガスは、鉄道、はしけを使う石炭より輸送のコスト面も有利だった。
シェール革命から石炭火力の発電量は大きく減少を始め、18年に史上初めて天然ガス火力の発電量がシェア1位となり、それからもシェアを伸ばしている。23年の発電量シェアは、天然ガス43%、石炭16%だ。石炭火力がシェアを失っているのは市場の力のためで脱炭素との関係は薄いが、バイデン政権は35年の全電源の脱炭素化目標のため石炭火力設備削減を一段と進める方向を明らかにしている。
今年4月に環境保護庁が石炭火力からの新排出基準を発表し、32年以降石炭火力の運転が難しい状況を作り出した。石炭火力削減が一段と進むかと思われたが、逆に削減スピードは落ちている。14年の2億9900万kWの石炭火力の設備容量は8年後の22年には1億9600万kWになった。年平均1300万kWの減少だ。しかし、昨年の減少は1年間で600万kW。今年1月から6月にかけての減少は130万kW。石炭火力廃止スピードは急減速している。
日本同様、米国でも電力需要量は伸びていなかったが、生成AIによるデータセンターと半導体製造需要、ヒートポンプ、EVなどの電化需要により、これから伸びると想定されている。石炭火力設備がなければ需要を満たせない可能性が出てきた。例えば、大手電力サザングループでは石炭火力の閉鎖予定を延期した。また北東部のPJM市場では、送電線増設完了まで石炭火力維持が決まった。
日本でも電力需要はこれから伸びる。脱炭素の掛け声の下、石炭火力を廃止すれば、供給の不安定化を招く。安定供給の観点から火力発電設備の維持を真剣に考えなければ、日本でのデータセンターの建設は進まないだろう。必要なのは成長を支える電力供給だ。