ついにドイツにも進出した中国製洋上風力設備
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
(「EPレポート」より転載:2024年7月21日号)
欧州連合(EU)域内には北海、バルト海など風況に恵まれた海域も多く、洋上風力発電はEUのお家芸だった。しかし、中国が風力発電、特に洋上設備の導入を急速に拡大し、EUを追い抜いた。
2023年の累積の風力発電設備容量では、全世界9億4550万キロワット(kW)のうち、中国が4億300万kWを持つ。洋上風力発電設備7520万kWのうち、中国の設備容量は3780万kW。シェアは50%を超える。この市場規模を背景に中国の風力発電設備メーカが世界市場でも大きなシェアを握るようになった。2023年のランキングでは、上位5社中にヴェスタスが辛うじて3位に留まっているが、4社は中国メーカだ。洋上風力発電設備では、中国Myngyang(明陽風電)が世界一位。昨年の世界の洋上風力導入量1090万kWに対し、設備供給は約300万kWだった。
中国メーカが大きな市場シェアを持つようになった背景には、圧倒的価格競争力がある。欧米メーカよりも20%安いと言われているが、半額との報道も見受けられるほどだ。この価格競争力に脅威を覚えたEU諸国は、昨年12月に「風力協定」を締結した。親露中姿勢のハンガリーを除き26カ国が署名している。EU域内でのサプライチェーンの拡充などが謳われているが、狙いの一つは、サイバーセキュリティ条項の導入による中国メーカの排除にある。
しかし、事業者にとり重要なのは価格だ。既に中国製設備は欧州の5カ国で導入されているが、シーメンスのお膝元ドイツでも明陽風電製の世界最大級のローター径260メートルの1万8500kWの洋上風力設備16基の導入が決まった。2028年に完工予定だ。
事業者は、サイバーセキュリティについても、コンサルタントを起用し問題がないことを確認済みと強調しているが、中国製設備採用の大きな理由は価格だろう。
日本でも洋上風力設備導入に合わせた国内メーカ育成が謳われているが、実績のない日本企業が中国企業に対し価格競争力を持つことは困難だろう。やがて中国製が市場に溢れるのではないか。