乱気流に巻き込まれる風力発電


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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(「EPレポート」より転載:2023年4月1日号)

 環境活動家グレタ・トゥンベリさんが、先住民の権利を侵害しているとされるノルウェーの風力発電設備の停止を求める抗議活動に参加しオスロで拘束されたニュースは、日本でも報道された。グレタさんの故郷スウェーデンでも風力発電計画が物議を醸している。

 スウェーデンの電力供給の主体は水力と原子力だが、陸上主体の風力発電設備も供給量の17%を担っている。今後風力設備はフィンランドとの間にある北部のボスニア湾中心の洋上に拡大する予定だ。ボスニア湾に建設予定の洋上風力発電設備のため、凍結する冬季の航路を砕氷船が確保することが難しくなるとして、スウェーデン政府海運管理局は北部の港湾都市への輸送に壊滅的な打撃が生じるとの懸念を表明している。

 ドイツでは、今年初の陸上風力320万キロワット(kW)の入札募集に対し応札は150万kWに留まった。資器材の高騰、金利上昇などが影響したと報じられた。

 風力発電設備の材料供給についても大きな懸念がある。欧州委員会は中国依存となっている重要資材の調達に関する法案の中で、EU内での生産あるいはリサイクルの目標を立てているが、実現するか懐疑的な見方も多い。

 それでもドイツは再エネに賭ける。ドイツの世論調査では7割以上の国民が原発の継続利用を支持しているが、環境相は原発を4月15日に停止すると発表した。

 一方、98年に脱原発の中止を決めたスウェーデンは、最大基数を10基とし、かつ既存立地点に限定し原発の利用を続けている。

 しかし、ロシアの戦争は安全保障の考え方を変えた。スウェーデン政府は原発政策を見直し、新規地点での新設を可能にする方針を明らかにした。エネルギー安全保障強化に洋上風力だけでは不十分。自給率向上に真に寄与するのは原発ということだろう。

 日本政府は洋上風力に肩入れしているが、原材料供給、コストの問題は解決するのだろうか。安全保障、電気料金、産業振興の観点からは新型炉による原発の新増設を考えた政策が有効に違いない。