河野大臣、小泉大臣
不毛なエネルギー政策の議論を止めませんか


国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授

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 自民党総裁選候補者のエネルギー政策に関する意見が伝えられているが、河野大臣の意見が他の候補者とは異なっているようだ。立候補してからは反原発を封印されているが、再生可能エネルギー最優先との姿勢ははっきりしている。河野大臣を支援する小泉大臣も同様の考えのようだ。
 河野大臣は、6,7年前に「電気料金の影響はたいしたことはない。工業出荷額に占める比率はごくわずかだ。人件費の影響のほうが大きい」と発言したことがあった。明らかに間違いだ。問題は出荷額に占める比率ではなく、値上がり絶対額の影響だ。当時の電気料金と人件費の推移を示す下図の通り、電気料金は40%近く、金額では1兆2000億円上昇することがある。電気料金の影響は人件費にすると4%分に相当する。電気料金が経営に大きな影響を与えることが分る。

 河野大臣は、ドイツとフランスの再エネと原子力の関係についても間違ったことを雑誌に掲載していたことがあった。同じ時期に間違った内容の記事を掲載した朝日新聞と一緒にまとめて、何が間違いかをWedgeの連載に掲載したことがあったのでお読み戴きたいが、誰かから聞いたあやふやな話をそのまま雑誌に書いたのだろうか。掲載前に欧州の電力事情に詳しい人に聞けば、間違いだと分かったのではないだろうか(河野太郎と朝日新聞 不正確な脱原発論の共通点)。

 河野大臣が、再エネ、原子力について誤解に基づいた話をしていたのは、7,8年前のことだ。その後、エネルギー・電力問題に対する理解が深まっただろうか。どうもそうではないようだ。総裁選の公開討論会では次のように述べている「再生可能エネルギーを増やすことができなかったのは、原子力発電に重きを置こうという力が働いていたからだ」「原子力発電のコストが見直されて、再生可能エネルギーの方が安いということが明確になった」「原子力産業は、あまり先が見通せない」(9月19日付西日本新聞)。
 再エネが増えなかったのは、原子力のためではなく、発電コストが高く制度で支援する必要があったからだと思うが(依然支援は続いているが)、そうは理解されていないようだ。また、再エネが安いというのは、統合コストを含めない話だろう。しかも、2030年に原子力も再エネも新設した場合の話だ。既存原発の再稼働の話ではない(原子力発電のコストは太陽光より安いのか、高いのか)。

 原子力産業はあまり先が見通せないというのは、最近の欧米露中の小型モジュール炉への取り組みを知らないからだろうか。いずれにせよ、気になるのは、「再エネと原子力は対立しており、原子力のため再エネが伸びなかった」と考えていることだ。エネルギーの問題を対立軸で考えるのは意味がない。経済性、自給率、環境の観点から最善の組み合わせを考えるのが、正しい政策立案の立場だろう。
 小泉環境大臣も同様の思考のように見える。インタビューでは高市候補がエネルギー基本計画の見直しに触れたことに関し、「再生可能エネルギー最優先の原則をひっくり返すのであれば、間違いなく全力で戦っていかなければならない」「原発を最大限増やして脱炭素を達成したいと思うのか、再エネを最優先・最大限に導入して達成したいと思うのか。この対立構図だと思う」と答えている(9月17日付FNNプライムオンライン)。大事なことは、コスト負担少なく脱炭素を実現することで、再エネ導入を最優先で進める事ではないはずだ。脱炭素政策の目的は再エネ導入と環境大臣は考えているのだろうか。ここでも原発と再エネの対立構造を作りだしている。
 小泉大臣は、「改革というのは既得権益との戦いなので、私は当たり前のことを言っている」とも述べているが、エネルギー分野では既得権益は、制度で手厚い保護を受けている再エネのようにも見える。再エネを最優先・最大限導入との主張は、既得権益を守るように見えてしまう。そうすると小泉大臣が主張する「改革」とは何だろうか。
 二つのエネルギーを並べ、どちらかのエネルギーを選択するのは、エネルギー政策で避けるべきことだろう。エネルギーの選択肢が少なくなれば、エネルギー価格上昇と安定供給のリスクを抱える可能性も高くなる。総理候補には柔軟な発想に基づくエネルギー政策が必要だ。