核融合炉はどこまで小型化できる?(その2)
新方式で大革命が起きるのか?
岡野 邦彦
元慶應義塾大教授、1990年代から国の核融合関連委員会にも関与
前回の「そもそも核融合炉が大きくなる理由は何か?」では、50万キロワットの熱出力をめざす核融合実験炉ITER(イーター)が大きくなる訳を説明した。すなわち、核融合を起こすだけでなく、そこからエネルギーを取り出し、かつ燃料を内部で製造するなど、核融合炉としてエネルギーを生産し続けるために必要な一通りの技術を揃えるためには、この大きさが必要になる、ということだった。
一方、最近、核融合炉のプラズマを小型化する研究(以下、新方式と呼ぶ)を報道でよく耳にする(具体的には文末のリストを参照)。大型プロジェクトに並行して、新しいアイデアがどんどん研究されているというのは、核融合研究が健全な証拠であり、望ましいことだ。
ただし新方式によって、核融合を起こす「プラズマ」を小さくできるとしても、核融合炉全体としてはそれほど小さくできる訳ではない、ということを以下に説明する。
まずは、核融合炉の大きさをイメージしていただくために、図1に、東京電力柏崎刈羽原発6,7号機の断面図(外側の格納容器の直径が29m)と、ITER、および核融合実用炉の設計案であるCRESTを同じ縮尺で並べた。なお、CRESTは、前々回の「核融合炉は手の届くところにある――発電コストと必要な研究開発投資は」で紹介した高経済性核融合炉の設計案(予想発電原価は7.6円/kWh)である。
核融合炉には、原発にあるコンクリートの格納容器というものはなく、本体の一番外は、磁場を発生する超伝導コイルの超低温を維持するためのステンレス製の断熱容器になる。その外径は、ITERが30m、CRESTは32mで、原発と同じような大きさに見えるが、核融合炉は、この外にプラズマを加熱する装置などが隣接して置かれるので、建屋の規模としては原発よりは大きくなる。
さて本題の「新方式」の話に入ろう。
磁場を使う核融合では、磁場の力で一億度のプラズマを閉じ込めるから、磁場は強いほうが、プラズマの圧力は上げられる。圧力が高くできれば、核融合の出力密度が上がる。つまりプラズマは小さくできる。しかし、磁場の強さには工学的に上限がある。磁場を作る超伝導コイルは、自身の発生磁場から力を受ける。その力で超伝導コイル自身を壊してしまう磁場強度が上限である。
磁場が同じでも、プラズマ閉じ込め性能を高められれば、プラズマ圧力を上げられ、磁場を強めたのと同様にプラズマを小さくできる。磁場の強さに比べたプラズマ圧力の割合をパーセントで表した数字を圧力指標とよぶ。ITERで使われる磁場構造であると圧力指標は5%くらいが上限だが、理論上はもっと高い数値にできるとされる磁場構造がある。
新方式の核融合炉は、1)磁場を強くする、または、2)圧力指標を高くする、のどちらかで、プラズマの圧力を上げることで、小さなプラズマで核融合を起こそうとするものである。では、プラズマが小さくなることで、核融合炉がどのくらい小さくできるかを、次に考えよう。
核融合炉は、図2のようにコイル(赤)の中にプラズマ(黄)ができる。プラズマはITERのようなトーラス型のものと、直線型のものがある。図2の黒い矢印で示す部分の断面のイメージを図3に示す。プラズマと超伝導コイルとの間には、ブランケットという装置(図の青部分)がある。
いま実用化を目指している重水素と三重水素の核融合反応では、エネルギーの80%は中性子の運動エネルギーとして、残りはヘリウムイオンの運動エネルギーとして発生する。中性子はそのまま超高速で飛んで来るので、それをブランケットで受け止める。ヘリウムイオンは、磁場に閉じ込められて運動エネルギーが電磁波や熱に変わり、それをブランケットで吸収する。
前回でも述べたが、ブランケットでは、1億度のプラズマに直面している内側の表面を材料の許容温度に維持しつつ、同時に、ブランケット内部では、発電タービン用の高温蒸気や高温ガスなどを発生し、かつ、リチウムから三重水素を生産する必要がある。また、超伝導コイルを中性子から守る役割も求められる。一つ一つだけなら、比較的簡単なのだが、限られた空間内でこれらを同時に達成するのは容易ではない。
このことも考えると、プラズマが小さくできても、以下の1)と2)の理由で、ブランケットはあまり小さくはできない。
- 1)
- ブランケットは薄くならない。
ブランケットの機能をすべて果たすためには、ブランケットは1mくらいの厚みが必要だ。プラズマの大きさには関係なく、この厚みは変えられない。すなわち、プラズマが小さくできても、ブランケットは薄くできない。 - 2)
- ブランケット内面の面積を小さくできない。
核融合プラズマが小さくなっても、それに合わせてブランケットを小さくしてしまったら、プラズマに対面する壁表面の面積当たりのエネルギーの入射量(壁負荷と呼ぶ)は増え、冷却が間に合わなくなる。図2にも示した電気出力116万キロワット(熱出力300万キロワット)のCRESTでは、かなり冷却能力の限界に近い高い壁負荷で設計している。この規模の出力の核融合炉であれば、プラズマがどんなに小さくできようとも、ブランケットの内側の面積はCRESTより小さくはできないことになる。
もう一度、図1と図3を見てほしい。核融合炉でプラズマだけ小さくできても、ブランケットが小さくならず、コイルもなくなるわけではないなら、核融合炉本体は、ほとんど小さくならないのがわかると思う。
さて、そうはいっても、新方式でプラズマが高性能にできるなら、それは核融合の未来に必ず貢献するはずだ。ITERで開発されるブランケット技術、プラズマを1億度に加熱する技術、計測・制御技術、燃料を製造する技術などは活かされる。そしてプラズマを小さくできるぶん、半額とは言えないまでも、CRESTよりもう少し安い核融合発電所ができるかもしれない。ITERと並行して新方式を研究する価値は十分にある。
人類の英知を集めて、より経済的な核融合発電所を、一日も早く実現しようではないか。
新方式の例(ほかにも多数ある)やそれらをまとめた資料;
- ①
- MIT and Commonwealth Fusion Systems(米国、トーラス型で磁場強化)
https://www.psfc.mit.edu/sparc- ②
- Tri Alpha Energy Technologies(米国、直線型で高圧力指標)
https://tae.com/- ③
- Tokamak Energy(英国、トーラス型で高圧力指標)
https://www.tokamakenergy.co.uk/- ④
- Lockheed Martin(米国、直線型で高圧力指標)
https://www.lockheedmartin.com/en-us/products/compact-fusion.htmlまとまった文献としては;
- ①
- プラズマ・核融合学会誌、Vol.93, No.1(2017)pp.18-20
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2017_01/jspf2017_01-18.pdf- ②
- 核融合エネルギーのきほん 小川、岡野、笠田著、誠文堂新光社(2021)pp.118-119