原子力発電のコストは太陽光より安いのか、高いのか
―5紙を読み比べると誤解を招く表現・説明の新聞も―
山本 隆三
国際環境経済研究所所長、常葉大学名誉教授
8月3日経済産業省は、2030年の電源別発電コストの試算を発表した。翌8月4日付け新聞各紙(一部電子版)は、この発表を見出しで次のように伝えている。
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- 読売新聞 【太陽光コスト「割高」 30年時点…経産省試算 天候が左右 不安定】
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- 朝日新聞 【発電コスト、原発11.7円以上 太陽光が下回る見通し 国2030年試算】
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- 毎日新聞 【太陽光8.2円、最安 経産省、2030年発電費用を試算】
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- 産経新聞 【事業用太陽光が最も割高に 2030年の電源別統合コスト】
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- 日本経済新聞【太陽光、30年最安に 発電コスト8.2~11.8円 経産省試算】
太陽光発電のコストは原子力発電より安いのか、高いのか。購読している新聞により随分異なった印象を持つことになる。
電気のコストって?
産経新聞は、8月10日付けで「電源別コスト試算 混乱を招く公表は問題だ」との記事を掲載している。この記事から、太陽光発電のコストに関する見方が分かれる理由を知ることができる。記事には「経産省は、今年7月に機械的に計算した発電コストを公表し、そこでは事業用太陽光が原子力よりも安いとしていた。だが、天候に発電量が大きく左右される事業用太陽光は、その変動を火力発電で調節する必要がある。今回の試算ではそのコストを追加し、より実態に近い数値を算出し直したという」とある。
7月公表の数字では、発電コストしか計算していなかったが、8月3日発表では、天候に左右される自然電源を安定的に需要家に届けるため必要になるコスト(統合コスト)も計算し、発表したということだ。読売と産経は、私たちの手元に届く時のコストを考え、太陽光は割高とし、朝日、毎日、日経は発電コストだけ考えた見出しにしている。各紙の見出しを見るだけで、エネルギー政策に関する考え方が伝わってくるが、では、読者に伝えるべきコストは何だろうか。
各電源の競争力を考えるのであれば、手元に届く時のコストを基に考えるべきだ。日経新聞は、「太陽光最安になる」とのタイトルの電源別発電コストの表を記事中に掲載しているが、記事の最後には、統合コストを考慮すると「事業用太陽光は30年時点で18.9円、陸上風力は18.5円だった。一方、原子力は14.4円、LNG火力は11.2円、石炭火力は13.9円で、いずれも太陽光と風力を下回った」と注釈を付けている。統合コストの数字も加えて表を作り直すと以下のようになる。
何が何でも原子力の発電コストを高くみせたい新聞社も
各紙ともに記事の中では、表現の違いはありながらも統合コストの説明をしているので、全紙とも事実関係で間違いはないと言いたいが、朝日は、意図的なのか、知識がないのか、原子力発電のコストについて誤解を招きかねない説明を行っている。朝日は、8月22日付け記事「原発安全対策費5.4兆円」の中でも、この電源別発電コストに触れているが、この記事でも同じような表現をしている。
今回試算された発電コストは、新たに電源を建設する際の2030年時点での発電コストだ。毎日は「試算は、発電設備を新たに更地に建設し運転した場合を前提に発電コストを算出した」と書いている。読売も「30年に新たな発電設備を更地に建設し、運転した場合の発電コスト」と新規建設の場合のコストと明記している。朝日は、「電源別の発電コストの試算について詳しい数値を公表した。原発は2030年時点で1キロワット時あたり「11.7円以上」となり」とあり、記事中どこにも新設した電源との説明はない。素直に読むと新設電源の話とは思えず、既存設備のコストが2030年時点で11.7円以上になると理解する方もいるだろう。
本文の最後には、ダメ押しで「原発はコスト面の優位性は低下するが、政府や大手電力会社は「他の電源と遜色ない」(電気事業連合会の池辺和弘会長)などとして、利用し続けようとしている」と出てくるが、コスト面の優位性が低下する(太陽光より安いのだが)のは新設プラントであり、利用しようとしている既存設備の話ではない。新設プラントのコストと関係のない既存原発利用の話を続けて書き、既存プラントのコストが高くなったのに再稼働を進めると読めるように書いている。他の情報を知らずに、この記事だけ読むとそう理解してしまうのではないか。
8月22日の記事でも同様の表現が出てくる「政府は今夏、これまで「最安」とされていた原発の発電コストについて、30年時点で太陽光を上回るとの試算を公表。安全対策費の増加などを反映し、1キロワット時あたり「11.7円以上」」。この表現でも既存原発設備の2030年時点の発電コストとも読める。特に既存原発の安全対策費に関する記事だけに、この記事だけの情報ではそう理解されるだろう。
主張を持つのは良いとしても、その前提は読者に誤解を招かない情報を正確に伝えることだろう。時には他紙との比較をしたほうが良いのではないか。