高濃度PCB処理の最前線
~JESCO北海道 訪問レポート~
山口 耕二
国際環境経済研究所理事・事務局長
はじめに
国家的イベント、東京オリンピック・パラリンピックは、10月28日現在で「あと1000日」のカウントダウンが行なわれている。一方、環境問題では、社会的義務である高濃度PCB廃棄物の無害化処理期限のカウントダウンが行なわれ、多くの保管事業者が処理計画の策定と運搬・処理費用の捻出に腐心している。
今回、国が運営する高濃度処理施設の一つである、JESCO北海道PCB処理事業所を視察した。
毒性が社会問題化し、無害化処理完了に向け努力中
ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、絶縁性、不燃性などに優れた特性を有することから、トランス・コンデンサーなど電気機器をはじめ幅ひろく工業用途で使用され技術のイノベーションに少なからず貢献したが、1968年にカネミ油症事件が発生し、その毒性が社会問題化し、1972年にPCBの製造と使用が禁止された。
わが国では、POPs条約で承認された「2028年PCB全廃」を2001年に調印し、その年にポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法が制定されPCBの処理に向けた施設の整備がスタートした。
高濃度PCB廃棄物の処理は、北九州JESCOが2004年12月に稼動し、今回訪問した北海道JESCOは2008年5月から稼動している。低濃度PCB廃棄物の処理は、2013年に愛媛県が運営する処理施設の認定をスタートに、現在、全国で39の認定民間施設が稼動している。
保管事業者は、関連する会社と打合せをしながら処理計画を作成し、処理費用を年度予算に組み込み社会的義務を果たす努力を重ねている。
北海道の施設は順調に稼動
処理施設は2008年から稼動し、変圧器とコンデンサーの処理はJESCO登録台数に対し2016年度末で85%程度が処理され順調に推移している(図-1)。
一方、安定器・汚染物等を処理するプラズマ溶融炉は2013年に稼働し、2016年からは1都3県分の処理を行っており順調に推移している。処理実績は、登録重量に対し未処理重量が約70%で、JESCOとしては、安定器等の処理能力のアップや、保管中の安定器からPCB不使用安定器等を取り除く仕分け作業の周知・徹底等を図るなど必要な対策を講じることで、高濃度廃棄物の期限内処理完了に向けて努力を重ねている。
操業は万全の安全対応で
北海道PCB処理事業所では、PCBの毒性を考慮し、緊急時における対応方策の策定や作業従事者の健康を守る・3つの管理を実施、排出源と周辺の環境モリタリングを実施するなど様々なリスク対応策が実施されている。例えば、軽微な設備トラブルに対しても、地元自治体にはその内容を報告するなど緊張感をもって安全運転に取り組まれていた。また、暴露リスクが大きいトランス、コンデンサーの解体作業は、作業従事者の健康管理面のリスクを考慮し1日2hr、週10hrの短時間に定められている。
処理費用の妥当性
現状の高濃度PCB廃棄物の処理費は、あまりに高額!の声を保管事業者から聞くことがある。私もこの施設を訪問する前は同じような感想を持っていた。しかし、今回の視察を通じて、現状の高額な処理価格にはそれなりの要因がある様に感じた。例えば、作業従事者の労働時間の制約、プラズマ溶融炉は年1回の定期点検、炉内耐火煉瓦の補修で4ヶ月/年のメンテナンス、モニタリングの分析費用、きめ細かな情報公開などリスク管理と作業の安全性および地域住民への配慮、事業終了後に解体と土地の返還などを考えると、ある程度、価格の妥当性はあるのでは、とも感じた。
最後に 処理促進に向けて
今回は、高濃度PCBの処理推進を目指し、国が運営するJESCO北海道の高濃度PCB処理施設を見学したが、産業界や公的機関では高濃度PCB廃棄物のほか、油や顔料等へ非意図的に混入された微量PCB油を含む電気機器類等も多く保管している。これらの無害化処理は、国や県が認定した民間の処理施設に委託している。
低濃度廃棄物の処理期限は、2027年3月迄で高濃度廃棄物より期限の余裕はあるが、促進策として、国には処理下限基準を欧米並みの50ppm超に見直すことの検討や市場原理で更に処理費と運搬費が下がることを期待したい。