日本の約束草案は野心のレベルが足りないのか?(第3回)
有馬 純・本部 和彦・立花 慶治
東京大学公共政策大学院 教授・客員教授・客員研究員
9.日本はJCMをINDC達成に使うのか
JCMを含め、ポスト2020年枠組に市場メカニズムがどう組み込まれるかは決まっていない。日本がINDCを策定するに当たって、JCMによる削減分を算入していないことはそうした理由によるものだ。日本がJCMの活用を前提としているとの批判は当たらないし、日本にとってのプライオリティはINDCの根拠となったエネルギーミックスを実現することにある。
JCMが高効率石炭火力をスコープに入れていることを批判する議論があるが、これはエネルギー情勢の現実を無視したものである。世界中に安価で潤沢な石炭資源が存在することを考えれば、発展途上国において石炭火力の需要が拡大することは不可避である。IEAは2014年の世界エネルギー展望において「投資家が石炭火力発電を新設する決定を下す際、最も効率の良いプラントがライフタイムで見ればコスト安であるとしても、必ずしも当該プラントが選ばれるとは限らない。これは特に資本制約があるときに該当する。高効率プラントは一般的により建設コストが高いからである」と述べている注11)。
日本は発展途上国の固有のニーズに対応し、JCMを通じて高効率石炭火力技術を移転することにオープンである。現実にインド注12) 等、いくつかの途上国はINDCの中に石炭火力の効率向上を盛り込んでいる。日本の高効率・低排出石炭火力技術は、さもなければ低効率石炭火力の導入によって増えてしまうCO2排出増を回避する上で、大きな貢献を果たし得るものである。
10.指弾ではなく促進を
世界全体の排出量の90%近い150カ国以上の国々がINDCを提出したことは高く評価されるべきことだ。その内容についてクラリフィケーションが必要なものがあるとはいえ、日本はそのレベルの妥当性を批判したことはない。
冒頭に述べたとおり、その背景や国情を理解しないままに特定国のINDCを批判することは不要な対立を生むだけである。
我々はポスト2012年枠組交渉を通じて、比較可能性・衡平性に関する特定のクライテリアに基づいて各国の目標値を比較し、その変更を迫るということが、無益なエクササイズであることを学んだ。全ての国が受け入れられるクライテリアに合意することなど不可能だからだ。
INDCは各国が自国の事情を勘案して策定したものであり、本ペーパー冒頭に掲げたような批判に応じて目標が見直されることなど考えられない。各国が相互のINDCの中身を確認・理解し、その実現を相互に後押しするような促進的なフレームワークの構築に努力を傾注するほうがはるかに建設的ではないか。
- 注11)
- World Energy Outlook 2014 page 180 “The importance of efficiency in coal fired power plants”