日本の約束草案は野心のレベルが足りないのか?(第1回)


東京大学公共政策大学院 教授・客員教授・客員研究員

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図2 過去40年間の日本のエネルギー効率改善 出所:経済産業省

図2 過去40年間の日本のエネルギー効率改善
出所:経済産業省

図3 主要国のエネルギー原単位(2011年)

図3 主要国のエネルギー原単位(2011年)

図4 日本の実質GDP成長率と電力需要の相関関係 出所:電力中央研究所

図4 日本の実質GDP成長率と電力需要の相関関係
出所:電力中央研究所

図5 OECD諸国の電力需要のGDP原単位(10年平均) 出所:地球環境産業技術機構(RITE)

図5 OECD諸国の電力需要のGDP原単位(10年平均)
出所:地球環境産業技術機構(RITE)

 原子力発電のシェアを現状の1%から22~20%にするには既存原発の着実な再稼働と運転年数延長が必要となる。大震災と津波を踏まえ、日本では世界で最も厳しい新たな安全規制が導入されており、再稼働のためには1兆円(約82億ドル)を超える追加投資が必要となっている。また、原子炉の運転年数は原則40年となり、例外的に延長が認められても一度限り最大20年とされた。上記の目標を達成するには、幾つかの原子力発電所で運転年数延長が必要となるが、延長に必要な安全基準は定められていない。Climate Action Trackerが指摘するように、原子力に否定的な国民感情が存在する中で、再稼働と運転年数延長を行うことは、膨大な政治資源を必要とする。事実、Climate Action Tracker自身が2030年の原子力発電のシェアは7%にとどまると想定している。原子力のシェア22-20%を達成することは「ほとんど達成可能」(can almost reach) とはとても言えない。
 日本は水力を除く再生可能エネルギー電源の発電量を、2013年から2030年にかけて31TWhから237-252TWhへ7-8倍拡大することを目指している。こうした急速な拡大は、ドイツ、英国、イタリア等が2000年から2014年にかけて実現した拡大に匹敵するものである(発電量の増分で見れば、より野心的である)。しかも日本は他国と接続された送電網なしにこの目標を達成しなければならず、目標をより難しくしている。
 もっと高い導入目標を設定できるとの見方もある。今回のエネルギーミックスの検討過程で三菱総研が提出した報告書の中には35%という数字が出てくる注2) 。しかし、この数字は、現実性のない仮定(太陽光及び風力について全てが出力制限可能、化石燃料削減効果のダブルカウント、送電網のほぼ無制限の広域運用等)に基づいて計算されたものであったため、目標検討に際して意味のあるインプットとはみなされなかった。
 日本のINDCの裏づけとなっているエネルギーミックスはエネルギー自給率の低下、化石燃料輸入に伴う国富の流出、エネルギーコストの上昇、温室効果ガスの増大という、他国が経験したことのない「四重苦」に直面する中で検討された。関係委員会や国民レベルでの徹底的な議論を踏まえ、エネルギー安全保障(エネルギー自給率の回復)、経済効率(エネルギーコストの引き下げ)、環境保全(温室効果ガスの排出削減)という3つのEの非常に微妙なバランスをとりながら策定されたものである。温室効果ガスの削減のみに着目してINDCを更に引き上げることになれば、上記の微妙なバランスを損なうこととなり、日本のエネルギー政策は持続不可能なものになってしまうだろう。
 電力市場自由化と並行して上記のエネルギーミックスを達成することは特に困難を伴う。政府と電力業界は協力しつつ、INDCと整合的なCO2原単位の達成に向け、早急に有効な枠組み、対策を策定し、実施していく必要があろう。

注2)
http://www.japanfs.org/en/news/archives/news_id035296.html

第2回へ続く