英国における再生可能エネルギー補助金カットの動き


国際環境経済研究所主席研究員、東京大学公共政策大学院特任教授

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 LCFに基づき、間接補助総枠にタガをはめる英国のアプローチは、再生可能エネルギー導入が拡大すれば補助額も野放図に拡大してしまう日本や見直し前のドイツのFITとの大きな違いだ。しかもこの年間総枠のうち、CfDに振り向けられるのは2015年度で0.5億ポンド、2016年度~2020年度に2.05億ポンドである。先行するROの補助を受けている再生可能エネルギー施設が多数存在し、そうした「根雪」部分も総枠の中に含まれているからだ。CfDでは、各再生可能エネルギー源毎に政府がストライクプライス(administrative strike price)を設定しているが、事業者が実際にその水準を受け取ることが保証されているわけではない。2016年度の場合、CfDに伴う補助総額に2.05億ポンドのキャップがはまっていることに加え、その内訳として「確立された技術(established technologies)」に0.5億ポンド、「確立度の低い技術(less established technologies)」に1.55億ポンドの枠がはめられている。「確立された技術」とは5MW以上の陸上風力、5MW以上の太陽光発電、CHPを伴う廃棄物エネルギー、5MW~50MWの水力、ランドフィルガス、下水ガス等を指し、「確立度の低い技術」とは洋上風力、波力、潮力、地熱等を指す。
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/336101/draft_cfd_budget_notice.pdf#search=’draft+budget+notice+for+cfd+allocation+round+1′

 即ち、陸上風力事業者は0.5億ポンドの補助枠をめぐって同じ「確立された技術」に属する他の技術と競争しながら入札に参加しなければならない。2015年2月に発表されたCfDの第一次オークションの結果を見ると、陸上風力のストライクプライスの水準は80~82.5ポンド/MWhであり、政府が設定した水準95ポンドを下回っている。
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/407059/Contracts_for_Difference_-_Auction_Results_-_Official_Statistics.pdf

 陸上風力事業者からすれば、枠が限られ、オークションへの参加を強いられるCfDよりも、これまでのROに参加していた方が有利だということになる。ところが案に相違して、予定より1年早くROが利用できなくなってしまったというわけだ。更に政府は陸上風力に対する建設予定地周辺住民からの反対が強いことを受け、政府は地域住民に建設計画への拒否権を与えるべく法律改正を行う予定だ。

 こうした一連の政策は陸上風力事業者から見れば「冷や水」であるが、総選挙時の保守党のマニフェストには「陸上風力のこれ以上の拡大を止める」と明記されており、ある意味、予想された動きでもある。

 しかし、英国政府による再生可能エネルギー補助の見直しは陸上風力にとどまらない。7月には小規模な太陽光発電(50kw~5000kw)へのROの適用を同じく1年繰り上げ、2016年4月で打ち切ると発表した。また2015年8月からは、これまで再生可能エネルギー企業に対して認められてきた気候変動賦課金(Climate Change Levy)の免除措置が終了する。

 これらの動きの背景にあるのは、再生可能エネルギーへの補助額がLCFの枠を超過し、国民負担が更に増大する恐れが出てきたからだ。2012年秋にデイビー大臣とオズボーン大臣の間で合意された枠を超過しそうな背景としては、原油価格が低下し、間接補助額が拡大したこと、技術革新による再生可能エネルギーの発電量が当初の想定よりも大きくなったこと等があげられている。政府は「このままでは2020年度の枠76億ポンドを15億ポンドほど上回る」と見通している。ラッド大臣は様々な場で「真面目に働いている家庭ができるだけ低水準のエネルギー価格を享受できるよう確保すべきだ」と述べているが、家庭部門の電力価格が過去10年間で60%上昇した家庭部門の電力価格のうち、15%がグリーン政策によるものだとの分析もある。間接補助の拡大に歯止めをかけねばというドライブが働いたのだろう。

 案の定、こうした一連の動きに対しては環境団体、再生可能エネルギー団体から強い抗議の声があがっている。風力発電団体であるRenewableUKは「今回の決定は最も費用対効果の高い再生可能エネルギーである陸上風力への投資や雇用創出を大きく阻害するものである。陸上風力への支援をカットする一方で、政府は国民の4分の1しか支持していない(シェールガスの)フラッキングを奨励している」と怒りを露にしている。ラッド大臣が議会のエネルギー委員会で原子力は風力や太陽と違って安定的な電力供給が可能であるとした上で、「我々は確実なベースロードが必要であり、原子力をエネルギーミックスの一部分とするため、原子力への支払いを増やす用意がある(We have to have secure base-load, so you should not be surprised that we are prepared to pay more for that in order to ensure nuclear is part of the mix)」と発言したことも彼らの怒りを増幅したものと思われる。

 「総選挙後の英国のエネルギー環境政策」に書いたように、ラッド大臣はオズボーン財務大臣に近い。そうした彼女の考え方が非常によく現れているのが7月24日に行った気候変動に関するスピーチである。お時間のある方は是非全文を読んでいただきたい。
https://www.gov.uk/government/speeches/secretary-of-state-speech-on-climate-change

 ラッド大臣はスピーチ前段で「気候変動は経済安全保障にかかわるものである」、「気候変動に対して適切な行動をとるならば、それがプロ成長、プロビジネスでなければならない」とした上で、「政府は方向性やビジョン、野心のレベルを定めることができる。政府はフレームワークやルールを創り、必要な支援や予見可能性を提供することができる」と政府の役割を強調している。ここまでは欧州のエネルギー環境大臣のメッセージとして驚くにあたらない。