環境と経済が両立に向かう『土壌汚染対策』とは(その10)
次世代の国内と世界を視野に入れた制度に
光成 美紀
株式会社FINEV(ファインブ)代表取締役
高度経済成長期に建設され、数十年の稼働を経た多くの工場や重工業施設は全国にあり、施設や建物の老朽化が進んでいます。増え続ける空き家問題と同様に、空き工場や老朽工場の問題は、今後の国内における地域再生やコンパクトシティの開発、地域の防災対策等においても無視することができない要素の一つとなるでしょう。
土壌汚染対策法の施行後、国内の経済環境や製造業の海外進出など、様々な要因が重なり、工場の閉鎖が続いていています。工場用地や既存の施設に対する土地の需要も少ないため、閉鎖された施設や工場が、商業施設や倉庫、集合住宅や介護施設などに活用されるケースは、いくつかの要件が満たされた土地に限られています。具体的には、土壌汚染対策費を捻出できる大企業の跡地で、駅前や既存の商業施設等に近接し、交通の便などが優れた土地です。
米国では、土壌汚染があり有効利用されていない土地のうち、政府の公的支援や開発事業者等へのインセンティブなしで、有効活用される土地は、全体の約5%であるといわれています。日本国内でも現在いくつかの工場跡地ではショッピングセンターや集合住宅が建設されていますが、これらは条件がそろった限られた案件であると考えられます。
一方、現在有効利用されていない工場跡地は潜在的に有用な資産であり、土壌汚染の調査の補助や有効利用に向けたインセンティブを付与することで、民間において、又は官民パートナーシップでの地域開発が期待できるとも言えるでしょう。
以前に紹介したように、米国では公的支出1ドルに対して17ドルの経済活性効果があったことが示されており、前回紹介したように、欧州でも土壌汚染を浄化した地域の再生は、2020年に向けた欧州グリーン成長計画の優先事項として組み入れられています。
環境問題には、広く汚染者責任原則があり、汚染原因者が費用を負担するという考え方が大きな原則となっています。このため、汚染原因者である施設の所有者が費用を捻出できない場合には問題を放置するしかないという方針がとられてきました。しかしながら、土壌汚染の問題は、すでに紹介したように、様々な要因で地中に蓄積されており、汚染原因が明確でない場合や、複数の汚染責任を明確に区分できないという特性があります。
このため、欧米では、土壌環境、地下水環境の保全のために、私有地において公的な支出を投じた調査が実施されています。また、特に過去に戦場となった土地や自然的要因による土壌汚染については、免責規定の整備や対策費の基金からの支出などを進め、地域再生や土地利用の推進によって、将来的な納税額と費用を相殺するTIF(Tax Increment Financing)等の手法も活用されています。
日本国内においても、耐震診断や省エネ診断、省エネ機器については、法人や個人の私有資産について様々な公的支援を設けて環境保全活動を推進していることを考えても、汚染原因が不明確な土壌・地下水汚染や、自然由来・建設由来の汚染、また地域開発により土地の有効利用によって税収増が期待できる地域開発では、政策的なインセンティブを投じて汚染サイトの再開発をすることは大きな経済的効果を生むと考えられます。