日本鉄鋼業が推進する技術移転の三本柱
丸川 裕之
日本プロジェクト産業協議会(JAPIC) 専務理事
日本の鉄鋼業は、石油ショック以降今日に至る迄、製鉄所・工場内の生産プロセスにおける省エネルギーに心血を注いできた結果、世界最高水準の省エネ効率を達成し、今もこれを堅持している。またその過程で培った省エネ技術を他国の鉄鋼業に普及させること画世界全体の地球温暖化防止に役立つとの考えから、セクトラルアプローチの重要性を説き続けてきた。将来的にも中国、インド等における削減余地は大きく、仮に、既存のBAT(ベストアベイラブルテクノロジー)が世界鉄鋼業に普及すれば、その削減ポテンシャルは、約4億t-CO2(日本のCO2排出量の約3割)にものぼるとのIEA(国際エネルギー機関)の試算もある。この考え方は世界の鉄鋼メーカーの大半が集う世界鉄鋼協会においても受け入れられている。
一方、カンクン合意を経て、地球温暖化問題における国際枠組み交渉の流れは、京都議定書型のトップダウン方式(第一約束期間 EU8%、米国7%に呼応して日本は6%を設定)から、プレッジ&レビュー方式(排出量を計測、自ら掲げた目標・政策を絶えず見直し改善、チェック)へと大きく変貌してきている。
その結果、プレッジ&レビュー方式への参加国が拡大し、とりわけ削減ポテンシャルの大きい中国やインドが参加することにより、今まで以上にセクトラルアプローチが機能を発揮する土壌が整ったといえる。
こうした中、日本鉄鋼連盟は、業界団体で世界初めてのISO50001(エネルギー管理システム)の認証取得に成功したことを以って、海外への技術移転・普及のためのツールとしての「3本柱」を確立した。
これは、製鉄所を人体に見立ると、「健康上の問題がある人が①正しい診察を受ける(ISO14404)②適切な処方箋を受ける(技術カスタマイズドリスト)③自己管理により健康な体をつくる(ISO50001)」ということになる。(図1参照)。私どもは、この「3本柱」によって、セクトラルアプローチを強力かつ具体的に推進し、日本政府が掲げる「攻めの地球温暖化戦略外交」に積極的に貢献していくことが可能になったと考えている(図2参照)。以下、3本の柱について紹介する。
① 第1の柱 ISO14404
「世界共通の尺度を用いた製鉄所のCO2排出量算定方式を鉄連が国際標準化(2013.3月)」
製鉄所が世界のどの国に有ろうと、設備構成に差が有ろうと、製鉄所の実力を出来るだけ世界共通の尺度で、簡便に評価できる手法を、日本鉄鋼業が初めて国際標準化したものである。この結果、CO2排出量を世界共通の同一指標で評価できるため、高い客観性、透明性、信頼性を以ってフロント・ランナーの鉄鋼メーカーとの違いを明確にすることができる。また、対策を打つべき分野と必要な技術が科学的・客観的に判明しているため、技術の進展に合わせて、削減目標と対策の見直しを弾力的に実施することが可能となる。
常々「ISO化は欧米主導」と言われ続けてきたが、この度、日本の鉄鋼業が多年に亘る国際交渉の困難を克服してISO化に成功したことは意義のあることと考える。