GHGの真実-2
GHGで見た適正な途上国支援のあり方とは?
北口 久継
新日鐵住金株式会社 環境部 地球環境対策室 主幹
1.温室効果ガス(GHG)排出量で評価することの重要性
前報では、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)のCO2 emissions from fuel combustion注1)に記載されている温室効果ガス(以下GHG)データを使用して、国別のGHG排出量を整理し、1990年と2010年の途上国と先進国の寄与を評価した。GHGで見ることでエネルギー起源CO2よりも途上国、特に中・印を除くその他の途上国の寄与が大きいことが判明した。エネルギー起源CO2の削減は、人類の生活に直接関わるため、利害関係が生じ、国際交渉は容易ではないが、メタンやN2O等のその他ガスは、副次的に発生しているものが多く、対策も比較的容易であることから、国際交渉においても途上国が受け入れやすいものであると思われる。
GHG排出量の内訳をより詳細に把握・理解することにより、GHG排出特性に応じた対策ができ、ひいては日本の工業技術だけでなく農林業等の技術により、その他の途上国の支援にも繋がるものと思われる。本報告では、GHG排出量の内訳を整理し、GHG排出特性に応じた排出抑制対策について言及してみたい。
2.GHGとは?
GHGは、石油や石炭などの化石燃料の燃焼によるCO2(エネルギー起源CO2)がよく知られているが、京都議定書における排出量削減対象GHGは、エネルギー起源CO2の他に非エネルギー起源CO2、メタン (CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン類 (HFCs)、パーフルオロカーボン類 (PFCs)、六フッ化硫黄 (SF6)がある。これらの発生源は、化石燃料の燃焼以外に、農業活動、森林破壊、廃棄物の埋め立て等多岐にわたるが詳細は、Appendixを参照されたい。CO2以外のガスは、CO2よりも温暖化効果が強く、CH4で21倍、N2Oで310倍、HFCsで140~11,700倍、PFCsで6,500~9,200倍、SF6で23,900倍の温暖化効果を有する。例えば、SF6の1トンの排出は、CO2の23,900トンの排出と等価である。以降の排出量の数値は、CO2に換算した数値で示している。
3.世界、先進国、途上国のGHG排出量内訳
(途上国では、今でもエネルギー起源CO2以外のGHG排出が半分以上を占める)
図1に世界、先進国(Annex-1)、途上国(Non-Annex1)におけるGHGの排出内訳を示す。1990年(左図)と2010年(右図)を比較すると、先進国(Annex-1)では、排出総量は、ほぼ一定で、エネルギー起源CO2[CO2 Fuel comb.]の割合も約75%でほぼ一定である。先進国では、排出割合の最も多いエネルギー起源CO2対策として、省エネやエネ転などの対策が有効であることが示唆される。一方、途上国(Non-Annex1)では、1990年では、エネルギー起源CO2よりもその他のGHG排出割合が約53%と大きい。1990年に対して2010年では、すべての排出量が増加し、エネルギー起源CO2は約2.5倍、GHGは約2倍に増加している。途上国の増加分が世界の増加分と対応する。エネルギー起源CO2の伸び率がGHGの伸び率よりも高いのは、中国、インド等の新興工業国のエネルギー起源CO2の伸び率が高いためと思われる。(内訳の内容に関してはAppendix参照)
図1 世界、先進国(Annex-1)、途上国(Non-Annex1)における排出内訳
4.中国、インドとその他途上国のGHG排出内訳
(その他途上国は、エネルギー起源CO2以外のGHG排出が約60%を占める)
そこで途上国を新興工業国である中・印とその他途上国を分けて2010年における、排出内訳を整理した(図2)。中国では、エネルギー起源CO2の割合が、約70%を占め、先進国型の排出特性を示す。また、工業プロセス起因のCO2[CO2 Industrial processes](セメント生産に伴う排出と思われる)の排出が多いのも特徴である。中国では、GHG削減には、先進国と同様の省エネ対策が重要であると思われる。インドでは、近年、エネルギー起源CO2の排出割合が増加し、約60%にまで上昇しているが、一方で、農業起因のCH4[CH4 Agri.]の排出も多く、その他途上国と先進国の中間のパターンを示す。インドでは、省エネ対策に加えて農業対策が重要であると思われる。
一方、中・印を除く途上国では、エネルギー起源CO2以外のGHG排出割合が高く、約60%を占める。特に大きいのが、CO2 Other(LULUCF注2)特に森林破壊が主と思われる)、CH4及びN2Oの農業分野[CH4 Agri.とN2O Agri.]からの排出であり、合わせて、GHG排出の約45%を占める。これより、中・印を除くその他途上国では、中・印と違った対策、すなわち森林整備や農業対策が重要な施策となってくることがわかる。
図2 中国、インドとその他途上国における排出内訳
注1)IEA CO2 emissions from fuel combustion 2012
注2)LULUCF(Land Use, Land Use Change and Forestry) 土地利用、土地利用変化及び林業