日本の技術を生かすことが温暖化問題解決のカギになる
関田貴司・日本鉄鋼連盟 環境・エネルギー政策委員会委員長[後編]
松本 真由美
国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授
日本の鉄鋼業界が推進する「三つのエコ」
――我が国は、どのように強みを発揮していったらよいのでしょうか。
関田:鉄鋼連盟は、鉄鋼業での「三つのエコ」を提唱しています。
一つは「エコプロセス」です。これは、鉄をつくる際のエネルギー効率を向上することです。日本の鉄鋼業の省エネ技術は世界で最も優れています。鉄をつくる際に発生するCO2は、中国は日本の1.2倍もあります。生産体制の最適化と操業設備・技術の改善、先進技術の導入により、鋼材生産のエネルギー効率を向上し、CO2削減をめざすのが「エコプロセス」です。
もう一つは「エコプロダクト」です。鉄鋼製品はどれも同じと思っている方が一般的だと思いますが、そうではありません。高機能鋼材の供給を通じて消費者が最終製品を使用する段階で省エネを促進することを「エコプロダクト」と呼んでいます。
――使用する鉄製品によって、省エネの度合いが変わるということでしょうか?
関田:自動車を例にあげると、自動車の軽量化によって燃費向上を実現し、走行時のCO2排出削減に寄与する鋼材があります。自動車の強度を維持・向上させながら車体を軽くするために「ハイテン」と呼ばれる高張力鋼が使用されていますが、これは日本鉄鋼業が大きな競争力を有する商品分野です。ほかにも、最近普及の進むハイブリッドカーや電気自動車の分野で、燃費向上、高出力化、小型軽量化に貢献している電磁鋼板なども代表的な例です。
2010年度における鉄連加盟各社の高機能鋼材(船舶、変圧器、自動車、発電用ボイラーなど)が使用段階で削減したCO2は、国内で使用された鋼材の効果だけで909万t、輸出品が1130万t、合計で2000万t程度と試算されています。
三つ目は先ほども少し触れた「エコソリューション」です。世界最高水準の日本の省エネ技術を世界に普及させ、地球規模でのCO2削減のためのソリューションを提供することです。世界鉄鋼協会やGSEP(エネルギー効率に関するグローバルパートナーシップ)、日中鉄鋼業環境保全省エネ先進技術交流会など、国際的な協力体制の構築に積極的に参加し、地球規模での排出削減に貢献しています。
――日本の鉄鋼業界による「三つのエコ」の結果、どの程度のCO2削減を実現できているのでしょうか。
関田:日本エネルギー経済研究所の試算によると、鉄連全体で、2010年度における「三つのエコ」によるCO2削減効果は年間7800万tにのぼります。これは、1990年度の鉄鋼業の総排出量の約39%、我が国の総排出量の約6%に相当します。鉄鋼業の持つ技術の削減ポテンシャルの大きさを示すものです。
日本の鉄鋼業の取り組みによる2010年度のCO2削減効果は「エコプロセス」が1800万t、「エコプロダクト」が2000万t、「エコソリューション」が4000万tで、合計で7800万tに達する(出典:日本鉄鋼連盟のホームページ)