海洋プラスチックごみ問題解決に向けての「クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス (CLOMA)」の取り組み(第三部)

~ケミカルリサイクルの取り組み~


CLOMA事務局 次長

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1.世界に先駆け商業運転されている日本のケミカルリサイクル

 日本では、2000年頃よりケミカルリサイクルが世界に先駆け実用化され、現在では年間約40万トンの廃プラスチックが処理され、化学品などに再利用されている。ケミカルリサイクルは、廃プラスチックリサイクルの最大の課題である複合素材プラスチックや多層フィルムなどのミックスプラスチックを処理でき、しかも高品質の化学原料に戻せる優れた手法である。いわゆる水平リサイクルの典型的手法である。欧州でも日本と同時期に多くの研究開発がなされたが、商用運転されているのは1施設しかない。日本のケミカルリサイクル技術は海外からも注目されている。

 現在日本のケミカルリサイクルを行っている施設は、日本製鉄及びJFEのコークス炉、高炉を利用したもの、また昭和電工のガス化プラントである。実施企業は、主に、容リ法に基づき自治体が回収した廃プラスチックを入札により入手し、ケミカルリサイクルを行っている(容リ法ルート)。コークス炉ケミカルリサイクル方式では、コークス炉に石炭約99%に対し廃プラスチック約1%を混合して投入し乾留(空気を断って熱分解)することで、製鉄の原料となるコークスを製造、副産物として炭化水素油と炭化水素を得ている。炭化水素は製鉄所内で発電の原料となり、炭化水素油は化学品の原料としてリサイクルされている。コークス炉で処理される廃プラスチックの量は、例えば日本製鉄 君津製鉄所だけでも年間6万トンとかなり大きい。廃プラスチックを安定的に確保できれば、更に処理できる余力がある。
 2019年5月、ワタミは宅配弁当容器を自主回収して、日本製鉄のコークス炉でケミカルリサイクルする事業を愛知県より始め、現在、全国展開をはかっている(自主回収ルート)。ワタミは、宅配弁当容器のケミカルリサイクルで得られた化学品を原料にして、再度、宅配弁当容器を製造している注1)

 廃プラスチックのガス化プラントは、昭和電工 川崎事業所で商用運転している。処理規模は年間6万トンである。廃プラスチックをガス化し、水素と二酸化炭素を製造する。水素は窒素と反応させてアンモニアを製造している。二酸化炭素も大気に放出するのではなく、ドライアイスや液化炭酸ガスとして販売している。ガス化原料となる廃プラスチックは、フィルム・袋類、カップ類、トレイ類、チューブ類、ボトル類など、あらゆる種類が対象となり、本方式で再資源化できる。廃プラスチックは容リ法ルートにより逆有償(処理料金を得て)で入手している。ケミカルリサイクルではマテリアルリサイクルと異なり、原料となる廃プラスチックは分別不要で、多少汚れたプラスチックも処理できる。現在、水素でアンモニアを製造しているが、水素は燃料電池自動車の燃料としても使えるため、新たな事業展開も期待できる。

 現在稼働しているケミカルリサイクルは減価償却を終えた既設設備を活用しているため事業が成り立っているが、今後新設する場合は、プラント建設コストと廃プラスチックの安定的確保が課題となる。

2.循環型社会に必要とされるケミカルリサイクル

 これまでリサイクルは静脈産業の事業とのイメージがあったが、今後、循環型社会に向けて、動脈産業の事業となる。なぜならケミカルリサイクルは、バージン材料と同品質のプラスチック材料まで戻せることから、製品の設計・仕様、製造工程、品質・機能について変更を必要としない。廃プラスチックは製品製造のための新たな資源と考えられ、動脈産業による動脈産業のためのケミカルリサイクルとなりうる。また、地球温暖化対策としても有効である。廃プラスチックの焼却処分と比較して、化学品原料として再度、製品に戻せるため、二酸化炭素の発生量を削減できるためである。

 欧州では2025年までに、現在の約5000万トン/年のプラスチック市場に1000万トン/年の再生プラスチックを導入する目標を掲げている。再生プラスチック調達の課題に対し、バージン材に戻せるケミカルリサイクルが注目され、多くのプロジェクトが立ち上がっている。ドイツのBASFは、2019年、廃プラスチックを熱分解して生成油を製造する技術を持つQuantafuel社に2000万ユーロを投資した。Quantafuel社のプラント規模は2万トン/年である。BASFは、商用運転している石油化学コンビナート(スチームクラッカー)に熱分解生成油を1%の濃度で混入して実証テストを行い、世界で初めて成功している。熱分解生成油を商業運転している石油化学ブラントに投入するには、商業プラントの操業に影響を与えないための相当の検討が必要である。BASFはQuantafuel社に対して、熱分解生成油を石油化学プラントに投入できるスペックまで精製する技術などを指導した。BASFはこのリサイクルをChemCyclingTMと称して、サステナビリティ経営の優先順位の高いものに位置付けて推進している。

 ケミカルリサイクルは、日本でも非常に注目されており、多くの企業で検討が始まっている。2019年、三菱ケミカルとJXTGエネルギー(現ENEOS)は、鹿島地区・石油コンビナート連携強化に向けた有限責任事業組合を設立して、廃プラスチックを石油精製・石油化学の原料として利用するケミカルリサイクルの技術検討を行うことを発表した注2)

 また、東洋スチレンは、従来のマテリアルリサイクルでは品質安全上困難とされていた使用済みポリスチレン食品容器を、米国Agilyx社から技術導入を受け、熱分解処理によりスチレンモノマー原料に再生する事業を進めている。デンカ(株)の千葉工場内に、使用済みスチレンの熱分解スチレンモノマー化実証設備(年間処理量 : 約3000トン)の建設検討に着手し、2021年度末の操業開始を目指すと発表した。

 三井化学は、自動車メーカーと共同で、自動車のシュレッダーダスト中の廃プラスチックを熱分解して油化し、化学プラント(ナフサクラッカー)に投入するケミカルリサイクル技術の開発を進めている注3)。廃自動車をシュレッダーにかけ細かく切断し鉄、アルミ、銅などの有価物を回収した後の残渣をシュレッダーダストと言っているが、日本では年間約60万トン発生しており、その約30%は廃プラスチックである。現在、ほとんどは焼却によるエネルギー回収であり、再生材料としての有効利用が課題となっている。欧州でも、自動車や電子電機機器のシュレッダーダスト処理は大きな課題となりつつあるという。

 廃プラスチックの油化技術は、1990-2000年代、石油代替対策として北海道や新潟で輸送用燃料(ガソリンなど)を生産する商業プラントとして実用化されたが、原料となる廃プラスチックの安定確保や採算性の問題により操業停止となった。これまで日本で開発された油化技術は、今後、石油化学コンビナートと結びついて、循環型社会の新しい廃プラスチックの再生利用方式として大いに期待される。

注1)
ワタミ(株)プレスリリース 2020年7月13日
注2)
三菱ケミカル(株)、JXTGエネルギー(株)プレスリリース 2019年11月7日
注3)
三井化学ホームページ