MENUMENU

ビル・ゲイツが原子力開発を進める理由


国際環境経済研究所所長、常葉大学経営学部教授


印刷用ページ

(エネルギーフォーラム「EPレポート」からの転載:2020年3月1日付)

 1月下旬に、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力企業、テラパワ一社の研究所を訪問し、企業を立ち上げた前社長からゲイツ氏の考え方をお聞きする機会があった。同社の目的は、廃棄物である劣化ウランを利用し発電を行う原子力設備の開発にあるが、ゲイツ氏がテラバワー社を設立した最大の動機は、世界の貧困層の人たちに競争力のある安全な電気を届けることにあった。

 気候変動問題に深い関心があるゲイツ氏は、まずCO2排出ゼロ電源による電力供給を考えた。再生可能エネルギーで100%の電力供給を行う場合には、最後の30%から40%の供給が高コストになり安価な電源になり得ない。そのため原子力の新技術による電力供給を考え、核拡散を防ぐため劣化ウランを利用し発電する技術の実用化を図った。米国にある劣化ウランだけで800年間、米国の電力需要を賄うことができる。また、電源喪失時には自然対流で炉を冷却することができる。

 ゲイツ氏はファンドを通し、蓄電池、再工ネの新技術にも投資を行っているが、テラパワー社にも既に700~800億円の個人資産を投資している。官民協力が重要として米国議会にも支援を呼び掛け、既にいくつかの新型炉支援法が成立している。テラパワー社のパイロットプラントの運転開始は2020年代中ごろになるとみられているが、新型炉の第1号になると見られているのは、ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)だ。26年に6万kWのユニット12基、72万kWが運転を開始する予定になっている。この炉は全体の8割がプールに沈められており、電源喪失時に冷却を行うことができる。

 運転開始予定がはっきりしているのは、米国の原子力規制委員会(NRC)の審査予定が明確だからだ。NRCのホームページには今年9月8日最終安全評価報告と掲載されている。民間の技術開発を議会、政府機関がさまざまな形で支えている米国は、SMR、新型炉の開発で世界をリードしそうだ。規制委員会の審査予定も見えず、技術の喪失が懸念される日本との差は開くばかりだ。



山本隆三 ブログ「エネルギーの常識を疑う」の記事一覧