中国で進むごみ分別改革とプラスチック規制(第一部)

~プラスチック輸入禁止~


上智大学大学院地球環境学研究科 准教授

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1.中国におけるごみ問題とプラスチック

 廃棄物、いわゆる「ごみ」への対策は中国政府において大きなテーマになっている。中国では今世紀に入り、急速な経済発展に伴って、排出する廃棄物の量も増加してきたが、廃棄物処理体制は十分とは言えず、焼却施設や埋め立て場の建設への反対運動も、昨年に武漢で発生するなど各地でみられ注1) 、ごみ問題が社会不安を引き起こしかねない状況となっている。「地域としてごみ処理場が必要なのはわかるが、私の家の裏庭では断固反対だ」という、Not In My Backyard (NIMBY)と呼ばれる反応は、日本でもかつて各地でみられた。が、経済発展が続きごみが増加し続ける中国では、これが現在大きな問題になっており、中国政府も対応に苦慮している。
 こうしたこともあって中国政府は、政策の基本方針を定める「五か年計画」において、これまで「循環経済を大きく発展させる」という項目を立て、分別回収、リサイクルや適正処理などのシステム構築に取り組んできた。習近平主席も、「ごみの減量化、資源化、無害化処理」と、そのためのごみ分別制度構築の重要性を指摘している注2) 。また、容器包装などのプラスチックごみの排出もトップクラス注3) である中国では、プラスチックによって引き起こされる海洋や土壌などの汚染は「白色汚染」と呼ばれ問題視されている。その対策として、2008年より全国的にプラスチック製品に対する規制がされてきたが、経済発展ととともに高まるプラスチック需要と廃棄量の増大に加え、海外からの輸入分も含めて、「白色汚染」はますます深刻化してきた。近年世界的に海洋プラスチック汚染が問題視されているが、中国は海洋へのプラスチックの流出量も世界一と言われている注4)
 こうした事情を背景として、特に2017年以降において政策面で大きな変化・進展がみられた。本稿では第一部として、中国政府が2017年に打ち出した、使用済みプラスチックなどの輸入禁止措置について、第二部としてごみ分別の罰則付き義務化について、そして第三部においてはレジ袋などの使い捨てプラスチック製品の生産・使用規制の計画について、それぞれ解説する。


(写真)北京首都国際空港において、包装ごみの減量を呼びかけるポスター。2020年、筆者撮影。

2.使用済みプラスチックなどの輸入禁止措置

 中国政府は2017年7月、「海外ごみ入境禁止 固体廃棄物輸入管理制度改革実施計画」注5) を定め、2017年末までに環境への害が大きく、「民衆の反響が強烈な」プラスチックなどの固体廃棄物の輸入を禁止するなどとした。全ての固体廃棄物(正確には再生用の資源)の輸入を禁止するのではなく、民衆による反感が強い非工業系の(つまり生活から出る)使用済みプラスチックについて2017年末に早々に禁止し、その他「国内資源で代替可能な」工業系資源の輸入を段階的に停止するとして、二つに分けて規制を実施している点に注意が必要である。つまり、汚れた生活系の「海外ごみ」が流入してくることに対して民衆が反感を覚えていること、それを政府が意識して、それ以外のものと比べてより強く規制していることが読み取れる。
 中国に輸入される使用済みプラスチックのリサイクルの現場における実態については、2016年にドキュメンタリー映画 「プラスチック・チャイナ」(原題: “塑料王国”)が克明に描いている。映画の中では、ある少女を含む家族が、不衛生なプラスチック「資源」の中に埋もれるようにして生活しながら、家族総出で分別・加工・袋詰めなどをしており、貧困問題、環境汚染、健康問題などの様々な問題について大きな示唆を与えている。こうした実態が明るみになるにつれて、国民の問題意識も高まり、政府も輸入禁止の政策を打ち出したものと考えられる。


(写真)ドキュメンタリー映画 「プラスチック・チャイナ」(2016年製作。アジアンドキュメンタリーズ配信)

 なお、当該映画においては、プラスチック「資源」の中に、欧米の製品とともに日本製品の容器包装などが映し出されており、日本で廃棄されるプラスチック容器包装の一部が不衛生な労働環境において、分別作業を経て、一部は資源になりつつも、その他はただ燃やされているという、輸入規制前の実態が如実に表されている。

 一方、上述の政府計画においては、工業系資源など中国国内の産業において需要が見込まれる資源については、「禁止」ではなく、段階的に「停止」するとしており、完全な一掃には慎重になっているような表現になっている。この点からは、国内循環経済の構築により資源供給を十全化することに取り組みつつ、輸入停止の影響もみながら対策を進めていくという姿勢が読み取れる。このため、国内のリサイクル体制の構築と、それによる良質な資源の供給確保が更に重要性を増すことになる。実際、当該実施計画においては、中国国内のごみの回収利用率を引き上げ、2015年には2.46億トンであった回収量を、2020年までに3.5億トンに引き上げることも明記している。

 輸入禁止措置の進捗状況は、中国政府当局の発表によると、中国全土の固体廃棄物の輸入量が2018年には前年比で46.5%減少注6) 、2019年前半には前年同期比で28.1%減少しているとされ、順調に進んでいることが強調されている注7) 。中国は日本からは、2017年に約130万トンの使用済みプラスチックを資源として輸入していたが、2018年には約5万トンに減少しており、禁止措置が実効的に執行されていることがみてとれる。中国政府は2020年末には、輸入「ごみ」の量を基本的にゼロにするよう全力を尽くすとしている注8) 。このように輸入禁止措置が効果をあげている一方、中国国内の資源循環を高めるため、ごみの回収利用率を如何に上げていくかが注目されるところ、第二部において分別の罰則付き義務化の動向について解説する。

注1)
New York Times. Protests Over Incinerator Rattle Officials in Chinese City. 2019.
https://www.nytimes.com/2019/07/05/world/asia/wuhan-china-protests.html
注2)
中国ネット. “政协双周会:打一场“垃圾无害化处理”全民持久战” (2017)
http://www.china.com.cn/cppcc/2017-05/12/content_40796790.htm
羅歓鎮(東京経済大学). 「日本における一般ゴミ分別収集システムの導入過程― ゴミ分別収集を試みている中国の視点から」 (2017)
注3)
UNEP. Single-use plastics: a roadmap for sustainability. 2018.
注4)
Jambeck et al. Plastic waste inputs from land into the ocean. 2015
注5)
中国政府ネット. “禁止洋垃圾入境推进固体废物进口管理制度改革实施方案” (2017)
http://www.gov.cn/zhengce/content/2017-07/27/content_5213738.htm
注6)
中国生態環境部. “国务院关于2018年度环境状况和环境保护目标完成情况的报告” (2019)
http://www.mee.gov.cn/ywgz/zcghtjdd/sthjghjh/201909/t20190923_748251.shtml
注7)
中国生態環境部. “禁止洋垃圾入境推进固体废物进口管理制度改革部际协调小组第二次全体会议召开” (2019)
http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk15/201908/t20190817_729148.html
注8)
中国生態環境部. “生态环境部2019年3月例行新闻发布会实录” (2019)
http://www.mee.gov.cn/xxgk2018/xxgk/xxgk15/201903/t20190329_697819.html