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議論急がれる投資環境の整備

書評:『自由化時代のネットワーク産業と社会資本』監修:塩見英治 編著:鳥居昭夫、岡田啓、小熊仁


国際環境経済研究所理事・主席研究員


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電気新聞からの転載:2019年12月13日付)

 これからわが国は、世界が経験したことのない人口減少・過疎化を迎える。すべてのネットワーク型の社会インフラの維持が難しくなる。高度経済成長期に投資された多くの設備が更新投資の時期を迎えつつある。自然災害が激甚化する中で、インフラの強靭化も求められるが、これから縮小していく社会において、どこまで投資できるのかは社会として慎重に見極め、費用対効果の高い投資を優先せざるを得ない。気候変動問題の深刻化により、インフラのあり方を変えていくことが求められているが、既存のインフラの維持と未来を見据えた投資とをどう配分するかも、悩ましい問題だ。

 自由化された状況において、ユニバーサルサービスの意義が問われ、かつ、社会インフラへの投資のあり方を考え直すことが必要になっている。社会インフラに対する投資環境整備は、競争による効率性の向上と、安定性の確保のバランスのもとに議論されるべき課題だ。わが国が水道法改正を議論した際には英仏2カ国をベンチマークにしたという。規制機関の査定能力の有無や雇用のあり方などによっても採られる手法は異なるので、わが国なりの社会インフラに対する投資環境整備を議論せねばならない。インフラ整備にかかる時間や、投資が不十分になったことで不具合が生じるとしても遅効性であることを考えれば、喫緊の課題だと言えるだろう。

 本書は、公益事業学会に所属する多くの研究者による共著によって、電力やガス、水道、通信、放送や郵便、高速道路、鉄道、航空運輸といったネットワーク産業が網羅的に取り上げられている。網羅的であるがゆえに、解決策の提言が十分になされているとは言い難い。しかも、今後効率的な社会インフラの維持を可能にするためには、データの共有や開示と個人情報の管理をどう両立させるかといった課題が必ず発生するが、データプラットフォームのあり方などについてはあまり触れられていない。

 さらなる議論に期待する部分は多いが、「ネットワーク産業の新たな課題」と題する第3章で取り上げられている「交通の地球温暖化問題」や「災害対応と物流」「少子高齢化と買い物弱者対策」「社会的企業としての地域鉄道」といった、議論が急がれるテーマについても取り上げたチャレンジングな1冊である。公益事業に関わる立場の方にはご一読をお勧めしたい。

※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

『自由化時代のネットワーク産業と社会資本』
監修:塩見英治 編著:鳥居昭夫、岡田啓、小熊仁(出版社:八千代出版 )
ISBN-13: 978-4842917009



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