査読システムの問題点:IPCCの科学的知見は正しいか?

印刷用ページ

(英 Global Warming Policy Foundation(2019/12/05)より転載
原題:「PEER REVIEW Why skepticism is essential」)

概 要

 2009年コペンハーゲン気候サミットに先立ち、ノーベル医学賞受賞者ピーター・ドハーティは批判者に対して気候変動に関する政府間パネル(IPCC)を擁護した。IPCCは何百人もの科学者が参加しており、「証拠は査読され公開された科学論文だけを使っている」とのこと注1)。同時期にIPCC議長は、インド環境大臣の報告書がヒマラヤ氷河についてのIPCCの悲観的な見方は変わるかと尋ねられた。ラジェンドラ・パチャウリは、それを一蹴した。「IPCCは査読科学しか検討しません」。その報告書のデータが「まともで信頼できる論文に登場しない限り、そんなものはゴミ箱送りです」注2)
 理屈では、査読研究は信頼できることになっている。査読なしの研究は信頼できない。IPCCは前者だけを使っているので、その結論は信用できるというわけだ。この議論は昔から、批判をかわして気候についての反主流の見方を遠ざけるのに使われてきた。
 だがその背後には、怪しげな想定がある。学術論文は、現実世界の意思決定の根拠としてしっかりしたものだ、という想定だ。だが実は、科学は現在きわめて厳しい「再現性危機」に襲われていて、有力な雑誌の編集者が「科学論文の相当部分、半分くらいは、まったくまちがっているかもしれない」と宣言したほどだ注3)。「科学は破綻している」と主張するメディア記事もよく見かけるようになった注4)
 本論の第一部は、ある雑誌が論文を掲載することに決めたからといって、その結論がしっかりしている保証にはまったくならないことを実証する。査読論文の相当部分はまちがいを含んでいる。最も高名な雑誌ですら、不正研究が門番の目をくぐりぬける。そして科学は自浄性を持つはずだが、それが起こるプロセスは場当たり的で複雑怪奇だ。
 ある政策が証拠に基づくものとされるためには、その根拠となる証拠が独立検証を受けねばならない。査読はその任を果たさない。天体生物学、生態学、経済学、化学、コンピュータ科学、経営学、医学、神経化学、心理学、物理学の各種分野からの報せはすべて、同じことを物語っている。「査読を受けた」というのは「政策に使える」ということではない、ということだ。
 本報告の第二部は、気候についての通念を見直そうと述べる。よい科学者たちは、査読は正確さを保証するものではないと昔から理解していたが、IPCCの高官たち---そしてそれを支える政治家、活動家、ジャーナリストたち---は世界の気候方針をそんな危うい基盤に基づいたものにしろと主張するのだ。
 査読研究の半分が「まったくまちがっているかもしれない」なら、気候研究の半分もまちがっているかもしれない。この考えが持つ政策的な意味は甚大だ。

注1)
Doherty, Peter. Sceptical thinking: Copenhagen and beyond, The Monthly, Nov. 2009;
https://www.themonthly.com.au/issue/2009/november/1266188171/peter-doherty/copenhagen-and-beyond.
注2)
No proof of Himalayan ice melting due to climate change. Times of India, 10 Nov. 2009;
http://www.webcitation.org/5wZuwHUZE.
注3)
Horton, Richard. What is medicine’s 5 sigma? The Lancet, 11 Apr. 2015;
http://www.webcitation.org/6g9lRzki3.
注4)
見出し記事としては以下のような例がある: ‘How science goes wrong’
http://www.economist.com/news/leaders/21588069-scientific-research-has-changedworld-now-itneeds-change-itself-how-science-goes-wrong‘Science has lost its way’
http://articles.latimes.com/print/2013/oct/27/business/la-fi-hiltzik-20131027, ‘Broken science’
http://reason.com/archives/2016/01/19/broken-science,‘Lies, damned lies, and medical science’
http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2010/11/liesdamned-lies-and-medical-science/308269/,‘Science’s big scandal’
http://www.slate.com/articles/health_and_science/science/2015/04/fake_peer_review_scientific_journals_publish_fraudulent_plagiarized_or_nonsense.single.html,‘Academic publishing is broken’
http://www.the-scientist.com/?articles.view/articleNo/31858/title/Opinion–AcademicPublishing-Is-Broken/,‘Scientific regress’
http://www.firstthings.com/article/2016/05/scientific-regress.

続き(全文)はこちらから↓

査読/ピアレビューの問題点 --懐疑主義こそ不可欠(PDF)

【 著者紹介 】
 ドナ・ラフラムボワーズはカナダの調査ジャーナリスト。IPCC について 2011 年に行われた暴露本『世界最高の気候専門家とまちがわれた不良ティーンエイジャー』の著者。2013年の著書『ゴミ箱送り:ラジェンドラ・パチャウリ、気候報告、ノーベル平和賞』は、IPCCの上層部を検討する。『ナショナルポスト』紙の元コラムニストで編集理事であり、カナダ市民自由協会の元副会長。特定の政党に所属したことはなく、投票先も様々だ。現在はBigPicNews.com でブログ執筆。

解説:キヤノングローバル戦略研究所 杉山 大志

 論文の査読システムには、重大な欠陥と弊害があることは、医学、経済学、心理学等、あらゆる科学分野で知られてきた。地球温暖化も例外ではない、と著者は指摘する。温暖化問題に関心のある方は勿論、科学全般に興味がある全ての方に読んで欲しい、衝撃の論文。
 GWPFによる論文「査読/ピアレビューの問題点―懐疑主義こそ不可欠」の山形浩生氏による邦訳。

※ Global Warming Policy Foundationの邦訳記事一覧はこちら