第5回 自動車業界は、統合的な対策で低炭素化を追求する[後編]

日本自動車工業会 環境委員会 運輸政策対応WG主査/トヨタ自動車 先端技術開発カンパニー 環境部 プロフェッショナル・パートナー 茂木 和久氏、日本自動車工業会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 前編では、自動車業界が取り組む温暖化対策「統合的な対策」の4つの柱の概要について伺うとともに、自動車の環境技術と国際貢献についてお聞きした。後編では、4つの柱の一つ「効率的な利用」に関するユーザー(ドライバー)側に向けたエコドライブの実践を推奨するツール開発の他、主体間連携、GVCの評価についてお話いただいた。前編はこちらをご覧ください。

日本自動車工業会 運輸政策対応WG主査 茂木和久氏

日本自動車工業会 運輸政策対応WG主査 茂木和久氏

同会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏

同会 環境統括部調査役 大須賀 竜治氏

―――ユーザー(ドライバー)の皆さんにも温暖化対策の実践を推奨されていると伺いました。

茂木氏:将来のコアドライバーとなる若い世代を対象に、キャラクターやストーリーを通じて、エコドライブに親しみをもってもらえるようアニメ動画を作成しました。当会のホームページの他、環境省や自工会会員各社等のホームページにバナーを設置しています。

やってみよう♪エコドライブ

(図1) 出典:日本自動車工業会

(図1) 出典:日本自動車工業会

大須賀氏:動画のコンテンツですが、「エコドライブって意外とすてき編」(約4分)、「知ってお得!エコドライブHow to編」(約6分)、「地球温暖化対策編」(約4分)の3本を公開しています。

茂木氏:今年5月には、エコドライブへの理解促進ツールとして新たに「e-ラーニングコンテンツ」のクイズとゲームを作成しました。(図2
 このコンテンツでは、アニメーションをベースに、スマートフォンやPC上でエコドライブや地球温暖化などの知識を繰り返し学べるクイズになっています。ゲームは、エコドライブの運転テクニックを競うものになっています。

エコドライブe-ラーニングコンテンツ(クイズ&ゲーム)

(図2)出典:日本自動車工業会
(図2)出典:日本自動車工業会

(図2)出典:日本自動車工業会

大須賀氏:200問ぐらいある質問のうちの20問が1つのサイクルとなっています。クイズに答えると最後に正解率何パーセントと出ます。点数を積み上げていくとゲーム上でメダルがもらえます。

―――おもしろそうですね!楽しみながらエコドライブが学べますね。

茂木氏:ゲームは、アクセルボタンやブレーキがあり、車を走らせながらエコドライブを学びます。信号をよく見て、信号が赤になりそうになったら、ゆっくり減速して車を止める。止まった後の加速はゆっくりやるとエコドライブになります。エコドライブを実践しながら、時間内になるべく早く走ることを競います。走行後に、「あなたは何人中何番です」というランキングも出ます。

大須賀氏:ゲームコンテンツをつくったきっかけですが、当会でアンケート調査をしたところ、「エコドライブをどれだけやっていますか」という設問について、年齢別では若い人たちがエコドライブの実践があまりできてないという結果が出ました。しかし、やはり若い人たちにエコドライブに取り組んでもらいたいという思いがあります。免許を取る前の年齢の人たちからエコドライブに関心を持ってもらえるよう、こうしたアプローチを取ってみました。

―――ドライバーのクルマの使い方は、燃費にも相当関わるわけですよね。

茂木氏:エコドライブがなぜ必要なのか。当会では、「エコドライブ10のすすめ」を提唱しています。(図3)急加速でダーっと走り、またブレーキ踏むと走った分だけガソリンを使うわけですから、無駄な走りになります。エコドライブは、ふんわりアクセルを踏んで、止まる時はゆっくり止まる。また車間距離を取ることも大事です。こうした走り方をすると、ガソリン消費が減らせ、一説には10%ぐらい燃費の差が出てきます。
 エコドライブは、省エネで地球温暖化対策になりますが、かつ安全運転を実践することにもなります。

(図3)エコドライブ10のすすめ

(図3)エコドライブ10のすすめ
出典:日本自動車工業会

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大須賀氏:運送業界がエコドライブを実践すると、統計上、実際に事故が半分になったというデータがあります。確実に事故も減りますし、10%燃費が良くなるということは、それだけ出費が減るわけです。燃料代が10%も減るとなると会社にとってメリットは大きいですから、会社を挙げて取り組んでいるところもあります。
 エコドライブは、出費が抑制できて、環境に良くて、事故が減る。この3つのメリットが同時に得られますので、ぜひとも皆に取り組んでいただきたいと思います。

茂木氏:補足すると、車のインパネの中に燃費計やランプ(アクセルの踏み方で色が変わる)の設備は最近ほとんどの車に付いていています。一つのアクセルの判断にしていただき、なるべくエコな運転をしてもらえればと思います。

―――運輸部門におけるCO2削減の主体間連携の取り組みについてもお聞かせいただけますか。

茂木氏:自動車メーカー各社は、セクターを超えた業界と主体間連携し、素材・部品や設備、ものづくりを含めた革新的技術の開発・導入を図り、製品やサービスの低炭素化をビジネスベースで推進しています。
 例えば自動車単体の燃費の改善については、自動車部品、鉄鋼、化学、電機電子、ゴム、板硝子などの業界と連携し、高温強度に優れた耐熱鋼や摩耗特性に優れた耐摩耗鋼、低燃費タイヤ用材料、リチウムイオン電池用材料の開発など、様々な部品や技術、製品適用事例があります。(図4

(図4)運輸部門CO2削減の主体間連携と取組み実績 出典:日本自動車工業会

(図4)運輸部門CO2削減の主体間連携と取組み実績 出典:日本自動車工業会

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 こうした主体間連携の効果もあり、運輸部門のエネルギー消費は21世紀に入り減少傾向にあり、CO2の排出削減になっています。

―――自動車業界の統合的対策のCO2削減の効果をどう評価していますか。

茂木氏:1995年以降の運輸部門におけるCO2削減状況を分析したところ、乗用車の次世代車の普及や燃費改善、交通流の改善、貨物輸送の効率改善とエコドライブがCO2削減の主な要因となり、CO2排出削減が進んでいる状況です。(図5

(図5)運輸部門におけるCO2削減の主な要因 出典:日本自動車工業会

(図5)運輸部門におけるCO2削減の主な要因 出典:日本自動車工業会

大須賀氏:今まで、自動車の燃費はモード燃費の改善に注力してきましたが、これからはモード燃費に反映しないけど実走行で効果がある技術もしっかり取り組んでいこうと考えています。高効率エアコンなどの補機部品も必要であり、部品業界との連携が益々重要だと考えています。

茂木氏:車の部品の調達から製造、流通・販売、使用段階、そして廃車までのGVCの観点で見ると、車の種類にもよりますが、7割8割が走行中に排出されるCO2ですので、ドライバーの皆さんへのエコドライブの訴求は、力を入れて訴求していきたいと思っています。
 もちろんその前段の工場での生産効率化や車体の燃費改善、そして廃棄段階においてもリサイクルシステムにも取り組んでいます。車のいわゆるライフサイクル全体において低CO2を追求し、無駄なことがないように取り組んでいきたいと考えています。

【インタビュー後記】

 自動車業界の温暖化対策は、「燃費消費効率の良い自動車」「効率的な利用」「交通流の改善」「燃料の多様化」の4つの柱から成る「統合的対策」です。この4つの柱について、具体的な事例も交えて、わかりやすく説明していただきました。電動車(xEV)の新車販売を伸ばすことが今後のCO2削減のカギですが、2020年の燃費基準目標はすでに達成しており、業界として積極的に燃費改善に取り組んでいることがわかります。
 しかし、最近発表された政府の新たな燃費規制案では2030年度の新車販売の平均燃費目標は、2016年度実績から32.4%の改善を求める厳しい目標となっています。電気自動車(EV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)の普及拡大を図るとともに、欧州やカリフォルニア州などで施行されているEVとPHEVの優先レーンや高速道路の割引などの施策も考える必要があると思いました。
 運輸部門において走行時のCO2排出がGVC全体の約7~8割を占めるため、私たちユーザー(ドライバー)が効率的に利用することも大事です。エコドライブの動画やクイズ、ゲームなどのe-ラーニングは私も試してみましたが、楽しく遊びながら学べます!ぜひ多くの皆さんにサイトにアクセスしてもらいたいです。