第4回 GVCにおいてタイヤの使用時が8割。対策のカギは低燃費タイヤ[前編]

日本自動車タイヤ協会(JATMA)環境部部長兼技術部部長 緒方 務氏、同協会 環境部課長兼技術部課長 時田 晴樹氏


国際環境経済研究所理事、東京大学客員准教授

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 日本自動車タイヤ協会は、自動車タイヤ(自動車用タイヤ、建設車両用タイヤ、産業車両用タイヤ、農業機械用タイヤ等)の生産、流通、消費および貿易に関する調査研究、安全や環境保全に関する施策の立案、推進などを行うことにより、自動車タイヤ工業の健全な発展を図り、日本経済の発展に寄与することを目的として1947年9月に設立された。ブリヂストン、住友ゴム工業、横浜ゴム、TOYO TIREが正会員企業となっている。自動車タイヤ業界のグローバル・バリュー・チェーン(GVC)について伺った。

日本自動車タイヤ協会 環境部部長 緒方務氏

日本自動車タイヤ協会 環境部部長 緒方務氏

同協会 環境部課長 時田晴樹氏

同協会 環境部課長 時田晴樹氏

―――まず、自動車タイヤ業界グローバル・バリュー・チェーンの柱についてお伺いできますか。

緒方氏:一番分かりやすい業界の取り組みの目玉としては、いわゆる転がり抵抗の小さい「低燃費タイヤ」があります。
 CO2排出量をタイヤのライフサイクル全体(原材料調達、生産、流通、使用、廃棄・リサイクル)で考えると、タイヤの使用時が8割以上になります。タイヤの転がり抵抗が直接燃費に影響します。そのため転がり抵抗を低減することにより、燃費が向上し、自動車のCO2排出量の低減が可能になります。
 我々は、世界に先駆けて乗用車用市販用夏用タイヤを対象とした「タイヤラベリング制度」の運用を2010年から開始しており、転がり抵抗の小さい低燃費を実現するタイヤの普及を図っています。

―――ラベリング制度は等級で分けているのですね。

緒方氏:転がり抵抗係数をAAA~Cまでの5等級、ウェットグリップ性能をa~dの4等級に分類し、転がり抵抗の係数がA以上(AAA、AA、A)かつウェットグリップがa~dの範囲内のタイヤのことを「低燃費タイヤ」と規定しています。(図1

(図1)グレーティングシステム(等級制度)について 出典:日本自動車タイヤ協会

(図1)グレーティングシステム(等級制度)について 出典:日本自動車タイヤ協会

―――低燃費タイヤの技術開発はいつ頃から進められてきたのでしょうか。

緒方氏:自動車メーカーは自動車の燃費を良くするために、エンジンの燃焼効率の改善や軽量化、各種抵抗の低減化を図っています。タイヤメーカーに対しても燃費向上につながる低転がり抵抗のタイヤの要求が2000年前半頃から非常に強くなった経緯があります。タイヤの燃費向上の技術開発が進むにつれて、タイヤ業界としても履き替え用のタイヤを対象にタイヤラベリング制度をスタートさせ、普及促進に努めました。(図2

(図2)タイヤラベリング制度の表示例(低燃費タイヤの場合) 出典:日本自動車タイヤ協会

(図2)タイヤラベリング制度の表示例(低燃費タイヤの場合) 出典:日本自動車タイヤ協会

―――ユーザーが低燃費タイヤを利用する割合は高いのでしょうか。

緒方氏:ユーザーが意識していなくても、実際に店頭で売っているタイヤの多くが低燃費タイヤになっていますので、割合は高くなっています。一般に新車用に付いているタイヤのほとんどが、実は低燃費タイヤです。だから履き替えたときに低燃費タイヤでないタイヤを付けると、かえって燃費が悪くなる可能性があります。

―――他に、タイヤの燃費に係る大事なことは?

緒方氏:特にユーザーに気を付けてもらいたいのは、空気圧です。空気圧の管理ができていないと低燃費タイヤの特長を生かすことができません。

―――それは、利用者側の問題ですね。

(図3)偏摩耗の例 出典:日本自動車タイヤ協会

(図3)偏摩耗の例
出典:日本自動車タイヤ協会

緒方氏:はい。空気圧の管理をどこまでちゃんとユーザーが認識しているかは課題です。空気圧が不足していると燃費の悪化を招くだけでなく、走行性能の低下やタイヤの損傷につながることにもなります。それから低空気圧のまま走行していると、偏摩耗をおこし、結局商品の寿命が短くなってしまいます。

時田氏:JATMAではタイヤの日常点検・整備の重要性を幅広く訴求することを目的に、高速道路のサービスエリアなどでタイヤに異常がないかの点検をしています。年間30回以上実施しており、各タイヤメーカーも同様の点検活動を行っています。
 大体4台に1台が、空気圧が不足している状況です。

―――4台に1台は空気圧が適切でなく、せっかく低燃費タイヤを装着していても、効率良く走っているとは限らないわけですね。

緒方氏:そうですね。例えば転がり抵抗が10%小さくても、その燃費の効果は大体8分の1から10分の1、つまり1%から1.25%程度です。それよりも、指定空気圧に対して、例えば2割足りなかった場合の燃費は、それ以上のネガティブな影響が出ます。

―――ユーザーが、この低燃費タイヤの機能を生かすためには、空気圧をチェックしてもらうことが大事なのですね。

緒方氏:月に1回は空気圧をチェックして、適正な空気圧を維持することが大切です。最近はSSもセルフが多いので気づかないケースが増えています。意識してないとなかなか難しいですね。
 タイヤの空気圧不足は、燃費の悪化をもたらし、余計な燃料費がかかります。また、偏摩耗やその他のタイヤの損傷を引き起こして、タイヤの寿命を縮める原因になることをユーザーには認識してほしいと思います。

―――低燃費タイヤ普及の今後の課題は?

緒方氏:市販されているタイヤの8割が低燃費タイヤになっていますので、あまり伸びしろはありません。現在、AAA、AA、Aの3つの等級がありますが、今後はさらにAAとAAAの比率を増やして、中身を良くしていくことが課題と考えています。

―――さて、業界として持続可能な天然ゴムの調達を進めていると伺いました。これについて教えてください。

緒方氏:世界的に見ると、タイヤの需要は右肩上がりで伸びています。天然ゴムは、タイヤの原材料の中でも2割から3割ぐらいを占める主要原材料です。天然ゴムに代わるものは、現時点ではなかなか見つからない状況です。天然ゴムはパラゴムノキという基本的には1つの品種です。リスクとしては、その品種が何らかの病気になることです。もともと天然ゴムは南米原産ですが、今、南米ではほとんど病気で枯れてしまっている状況です。

―――南米では枯れてしまっているのですか・・。天然ゴムの調達はリスクがあるのですね。

緒方氏:今は天然ゴムのほとんどは、東南アジアとアフリカで栽培しています。もう一つリスクを挙げると、天然ゴムの栽培は、特に欧州の企業の傘下で、大きな形で経営されているプランテーションやタイヤメーカー直営の農園もありますが、零細の家族経営の小さな個人の農家が多数あります。その中には収奪したような土地を使っていたり、不法に水資源を利用したり、児童労働などの労働条件も不当なものが問題視されました。今後、グローバルにコンプライアンスを遵守した天然ゴムの調達を目指していく考えです。

―――サステナビリティを考慮した天然ゴム調達を進めていくわけですね。

緒方氏:タイヤ業界では、日本のタイヤメーカー4社を含む世界の主要タイヤメーカー11社がメンバーになっているTIP※1(WBCSD※2内)の主導により、マルチステークホルダーの「Global Platform for Sustainable Natural Rubber」を2018年10月に立ち上げました。
 2019年3月に第1回の総会が開催され、タイヤメーカー、自動車メーカー、天然ゴムの生産者、消費者、NGOも含めて全部で40の団体が集まりました。具体的な活動に関しては、いくつかワーキンググループをつくって今後進めていく方針です。

※1 Tire Industry Project:タイヤ産業プロジェクト
※2 World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議

―――基本的に天然ゴムの調達は、100%輸入ですか。

緒方氏:日本はすべて輸入で調達しています。

―――タイヤの原材料は、国内で調達するものと海外で調達するものと、割合的にどのぐらいですか。

緒方氏:天然ゴム以外の原料は、輸入品も一部ありますが主に国内で調達しています。合成ゴムは主に日本ですね。合成ゴム以外に、添加剤にもいろいろありますが、例えばカーボンブラック。タイヤは何で黒いかというと、カーボンブラックが入っているからです。カーボンブラックは油を燃やした煤(すす)ですが、高度に精製されたものを利用します。

―――カーボンブラックはタイヤの性能に影響を与えていますか。

緒方氏:カーボンブラックを入れることによって、ポリマーの結合を強くし、耐久性を増す特性があります。しかし、カーボンブラックの量を増やし長持ちするように硬めのゴムにしてしまうと、グリップが低下してしまいます。それで今、シリカを別のカップリング剤と合わせて、カーボンブラックの代わりに入れて、化学的な結合を強くすることによって転がり抵抗を小さくしつつ、グリップ性能も落とさないタイヤの開発を進めています。

後編に続く〉