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複雑系理論で経済成長を解明

書評:セザー・ヒダルゴ 著、千葉 敏生 訳『情報と秩序:原子から経済までを動かす根本原理を求めて』


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC第6次評価報告統括代表執筆者(イノベーションとテクノロジー)


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電気新聞からの転載:2019年1月18日付)

 この本は、物理学を修めたヒダルゴが経済成長の謎を解明し、理系読者に分かりやすく説明したものだ。

 経済学者は経済がなぜ成長するのか分かっていなかった。資本が蓄積され労働が投入されると経済は成長するが、それだけではなぜ長期的に目覚ましい経済発展をするか、理解できなかった。その差を埋め合わせるために「全要素生産性」という項が発明されて、時間と共に増大するとされたが、辻褄合わせに過ぎず、「無知の指標」と自嘲された。やがて最近ノーベル経済学賞を取ったポール・ローマーが現れ、研究開発投資によって知識が増えるという定式化をした。だが相変わらず、肝心のこの「知識」の中身はブラックボックスのままであった。

 その後ブライアン・アーサーやスチュアート・カウフマンが創始した複雑系理論では、新しい知識とは既存の知識が組み合わさってできるものであり、その結果、生物の進化と同様に、知識の表現型である技術も進化し複雑性を増すものであるとした。

 その上でアーサーは、経済は技術の表現に他ならない、つまり経済も進化する複雑系である、とした。だがそれを現実に測定するには至らなかった。これを成し遂げたのがヒダルゴである。

 ヒダルゴは、諸国の「経済の複雑性指標」を定義し測定してみせた。具体的には、諸国の輸出品目の多様性を測定し、高度な生産技術を要する品目を輸出している場合には加点した。正確に言えばこれは輸出の複雑性だけれども、ヒダルゴはこれを経済の複雑性の代理変数とおいた。

 この「経済の複雑性」は1人当たりGDP(国内総生産)とほぼ比例することが分かった。そしてヒダルゴは経済の複雑性を、潜在的な経済成長力の指標であると論じた。

 しかしそれ以上に、筆者が思うに、ヒダルゴの偉業は、経済の複雑性を実際に測定してみせたこと、そしてそれが、1人当たりGDPという別の独立な測定と比例関係にあることを示したことだ。ここには「無知の指標」である全要素生産性も、ローマーの抽象的な「知識」も入ってこない。

 更に、ヒダルゴの理論は、イノベーションを通じて経済成長するための指針を与えている。経済の複雑性指標を高めれば良い。ではその政策は何か?企業が新製品を次々に世に問えるような経済環境を造ることだ。


※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず

情報と秩序:原子から経済までを動かす根本原理を求めて
セザー・ヒダルゴ 著、千葉 敏生 訳(出版社: 早川書房)
ISBN-10: 4152096837
ISBN-13: 978-4152096838



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