G20ブエノスアイレスサミットにおける気候変動・エネルギー問題

~2019年G20大阪サミットへの示唆~


国際環境経済研究所主席研究員

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 11月30日~12月1日、アルゼンチンにおいて、G20ブエノスアイレス・サミットが開催された。気候変動については、昨年7月のG20ハンブルク・サミットに引き続き、米国のパリ協定注1)離脱の表明を明記、その他19か国がパリ協定への強いコミットメントを確認し、意見の相違を浮き彫りにした形で首脳宣言が採択された。本稿では、気候変動・エネルギーに焦点を絞り、G20ブエノスアイレスの成果文書として取りまとめられた首脳宣言の内容および2019年G20 大阪サミットへの示唆について考えてみたい。

2019年G20大阪サミット会場(予定)大阪国際見本市会場(インテックス大阪)

(ⅰ) 気候変動

 初めに、気候変動に関する首脳宣言のパラグラフを見てみよう注2)。パリ協定に関するパラグラフのみ、「パリ協定署名国(19か国)」と「米国」に二分した形となっている。

G20ブエノスアイレスサミット・首脳宣言より(仮訳・抜粋) パラグラフ20・21

 上記のように、首脳宣言においてパリ協定に関するスタンスは、米国とその他の国で明確に異なるが、他方、気候変動に関しても、20か国において共同歩調が取れたパラグラフもある。主な内容は、次のとおりである。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃特別報告書に留意する
異常気象および災害に対して強じんなインフラへの投資を含む、包括的な適応戦略の重要性を認識する
温室効果ガスの排出の少ない未来を実現するために、各国が独自の道筋を計画し得ることを認識しつつ、各国の経験を共有し、適応に関する2018-2019作業計画を検討した
国連気候変動枠組条約(UNFCCC)COP24の成功裏の結果を期待し、タラノア対話に参加する

 2017年6月1日に米国のトランプ大統領がパリ協定の離脱を表明した際のステートメント注3)では、パリ協定からは離脱するとしながらも、気候変動枠組条約には残るとしており、また、同年8月4日に、米国がパリ協定離脱を国連に通知したとの発表注4)においても、「国益を守り、将来の政策オプションをオープンにしておくため、国際的な気候変動交渉に参加。パリ協定実施にかかるガイダンスに関する交渉にも参加する」としていた。したがって、今回の合意内容は、こうした米国の基本方針に沿ったものと思われる。
 一方、今回の首脳宣言では、長期的な温室効果ガス低排出型の発展戦略や国際的な資金フローの整合化については「議論した」との表現に留まっている。
 なお、米国のパリ協定離脱表明のステートメントでは、「中国は13年間もCO2を増加させる事ができ、インドは先進国の莫大な資金援助を条件に(パリ協定に)参加した等、米国にとって相当アンフェアである注5)」と、「自国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)」(温室効果ガス削減目標)への公平性に疑問を呈し、このNDCへの取組みである「緑の気候基金(Green Climate Fund: GCF)への拠出を停止する注6)」としていた。この離脱表明の経緯から、気候変動にかかる資金のトピックスについては、米国の立場は明確に異なる事を念頭に置いておくべきだろう。

(ⅱ) エネルギー

 次に、エネルギーに関する首脳宣言のパラグラフを見てみよう。こちらは、20か国で合意した内容となっている。

G20ブエノスアイレスサミット・首脳宣言より(仮訳・抜粋) パラグラフ22

 米国は、2017年7月7~8日に開催されたG20ハンブルク・サミットの首脳宣言注7)において、「経済成長を支え、エネルギー安全保障上のニーズを改善しつつ、排出を低減するアプローチをとるとの強いコミットメントを確認する」とするなど、エネルギーに関しても、米国独自のスタンスを盛り込んでいた。
 その後、同年8月4日のパリ協定離脱の国連への通知に関する発表においても、G20ハンブルク・サミットの首脳宣言に沿った形で、「イノベーションや技術のブレイクスルーを通じて温室効果ガス排出量の削減を続けるとともに、多くの国の『自国が決定する貢献(NDC)』におけるエネルギーアクセスや安全保障の重要性を鑑み、これらの国々の、クリーンかつ効率的な化石燃料のアクセスおよび利用、ならびに再生可能エネルギーおよびその他のクリーンエネルギーの普及を支援すべく、これらの国々と連携する」と表明していた。
 今年6月8日・9日にカナダのシャルルボワで開催されたG7サミットの首脳宣言注8)では、「米国は、持続可能な経済成長及び発展が、安価かつ信頼できるエネルギー源への普遍的なアクセスによることを信じ、世界のエネルギー安全保障を強化するための現在進行中の行動にコミットする」としたうえで、「市場に基づくクリーン・エネルギー技術の発展を通じたエネルギー移行の鍵となる役割、そして、持続可能で強靱でクリーンなエネルギーシステムの一部として、経済成長の発展を継続し環境を保全する技術融合及びイノベーションの重要性を信じる」との内容を盛り込んでいた。
 以上のように、前回のG20/G7サミットでは、気候変動だけでなく、エネルギーに関しても、(他国とは立場を異にする)米国のみに関する表現が入っていた。他方、今回の首脳宣言では、20ヶ国の合意として、温室効果ガス排出削減に向けて、「多様なエネルギー源および技術進歩があることを認識」しつつ、エネルギー安全保障などに取り組むこと、また、クリーンなエネルギー構成に向けて、「各国の事情に応じて複数のパスが想定されることを認めた」うえで、経済成長と温室効果ガス排出削減を組み合わせたエネルギー転換、エネルギー効率の協力を奨励することとなった。20か国の合意に向け、エネルギー源やイノベーションについて、このような各国の事情の違いを記載した点は興味深い。

(ⅲ) 2019年大阪サミットへの示唆

 G20ブエノスアイレス・サミットの閉会セッションでは、議長を引き継いだ安倍首相から、2019年6月28~29日に大阪市で開催予定のG20大阪サミットに向けた発信を行った。この中で、首相は、次回の大阪サミットでは「自由貿易の推進やイノベーションを通じ、世界経済の成長を牽引し、経済成長と格差への対処の同時達成、SDGsを中心とした開発・地球規模課題への貢献を通じ、包摂的かつ持続可能な未来社会の実現を推進したい」と述べた。特に、エネルギー・環境分野では、「環境保護と経済成長の二者択一ではなく、民間投資を積極的に呼び込み、環境と成長の好循環を作る発想が必要であり、気候変動問題や海洋プラスチックごみ問題などの地球規模課題への貢献について、建設的に議論したい」と発信した。
 国内では、6月15日に閣議決定された「未来投資戦略2018」において、「2019年のG20議長国として、環境と経済成長との好循環を実現し、世界のエネルギー転換・脱炭素化を牽引する決意の下、パリ協定に基づく、温室効果ガスの低排出型の長期戦略を策定する」こととされている。具体的には、首相指示により有識者会議(パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略策定に向けた懇談会)が8月に設置され、「イノベーション」、「グリーンファイナンス・グリーンビジネス」及び「海外展開・地域」の三つに分けて、検討が進んでいる。
 この有識者懇談会で取りまとめ予定の提言をもとに、G20大阪サミットで、日本が議長国としてリーダーシップを発揮することができるのだろうか。
 少なくとも、パリ協定に関しては、米国が離脱を明確に表明している以上、意見の相違はやむを得ない。また、離脱の理由の一つとされている資金に関する項目についても、歩み寄りには相当の困難を伴うだろう。
 一方、安倍首相が掲げる「経済と環境の好循環」や「イノベーション」については、至近の米国の国際交渉のスタンスとも共通することから、これらをキーに、合意事項を探ることは可能だろう。留意点としては、一般に、イノベーションは非連続であり不確実性を伴うことから、長期戦略を考える際には、複数のパスを想定することが重要である。かつ、温室効果ガス排出量の9割近くはエネルギー起源CO2であり、地球温暖化対策とエネルギー政策は表裏一体、さらに20か国のエネルギー事情はそれぞれに異なる。エネルギー源や技術進歩について、各国の事情の違いをどの程度許容できるのかも、注目したい。
 世界のエネルギー起源CO2排出量に占めるG20諸国の割合は、2015年時点で約8割を占め、長期的なエネルギー需要の変化を考えるとき、伸びしろが大きいとされるのが中国、インド、東南アジア諸国、といった新興国だ。これらの国の事情に応じて、経済成長と排出削減を両立しうる日本の技術により、地球規模の温室効果ガス削減に貢献する等の戦略も重要と考える。
 G20大阪サミットは、G20として日本で初めての開催であり、また、大阪では、2025年に万国博覧会の開催が決定した。万国博覧会のテーマの一つ、国連が掲げる持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)が達成される社会の実現に向けて、気候変動問題は大きな課題の一つである。従って、G20大阪サミットでは、例えば、エネルギー効率に資する関西企業の技術を世界に発信し、大阪・関西の存在感を高めると共に、万博開催に向けて弾みをつけるといった、地元の取組みにも大いに期待したい。

世界のエネルギー起源CO2排出量に占めるG20諸国の割合(2015年)
注1)
2015年12月の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された、2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み。
注2)
G20 Leaders’ declaration, Building consensus for fair and sustainable development
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000424877.pdf
注3)
Statement by President Trump on the Paris Climate Accord
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/statement-president-trump-paris-climate-accord/
注4)
Communication Regarding Intent To Withdraw From Paris Agreement
https://www.state.gov/r/pa/prs/ps/2017/08/273050.htm
注5)
先進国の温室効果ガス削減目標(NDC)が排出量に対する削減率の設定であることに対し、中国・インドはGDPあたり排出量(原単位)の設定となっており、中国のピークアウトは2030年前後とされている。
注6)
「緑の気候基金(GCF)」については、パリ協定において、先進国は2025年に先立って、現行の年間1,000億ドル以上を目標としており、途上国にも自主的な資金提供を奨励している。米国はオバマ政権当時、「2025年までに05年比で26~28%削減する」との国別目標の表明とともに、この「緑の気候基金」に30億ドル(約3,300億円)の拠出を約束していた。
注7)
G20 Leaders´ Declaration, Shaping an interconnected world
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000271291.pdf
注8)
The Charlevoix G7 Summit Communique
https://www.mofa.go.jp/ecm/ec/page4e_000847.html