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再エネ推進はどのような負担をもたらしたのか


慶應義塾大学産業研究所 教授


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EPレポートからの転載:2018年6月21日号 )

 清々しい晴天のもと、キャンパスを一緒に歩いていた学生が、太陽光発電日和ですねと言う。そうだねとうなずくと、これだけ発電できれば電力価格も安くなるのでしょうと微笑んだ。
 降り注ぐ太陽光は自然の恵みであっても、電力への変換には再生可能エネルギー固定価格買い取り(FIT)制度のもとに導入された設備が利用され、電力消費者はそのコスト負担を強いられる。その請求書には、減価償却費に加え、事後では年率10%を超えるような収益率が上乗せされている。かつてから、太陽電池(PV)ではモジュール価格が安くなっていくと見通されていたのに、それを前倒しで導入したことによる高い請求書は、発電する現在と未来の消費者に回ってくる。

FITによる経済負担

 再エネ電力は、卸売市場に供給され、時間帯によっては価格低下に寄与するだろう。しかし、それを喜ぶのは、補助金政策のための負担を別途支払っておきながら、購入時の(補助金を差し引いた)価格が安いというようなものである。朝三暮四(総額一定)であるよりも、両者の合算値はFITがなかったケースの価格を上回る。消費者が恩恵を受けるためには、FIT買い取り期間の終了後、幸運にも設備がまだ利用可能であり、また適切な制度が敷かれるまで待たなければならない。
 2012年10月に導入されたFIT制度は、日本経済に何をもたらしたのか。制度導入前、再エネ間の競争などコスト抑制も意識され、政府は制度開始5年目の買い取り総額を年5000億円ほどと試算している。しかし、現実に迎えた17年度には、総額は2.7兆円に拡大した。本年度は3.1兆円に達する見通しであり、もはや一般道路事業費の3分の2にまで達している。
 30年、震災後に停止していた原発の再稼働によって、年4兆円ほどの発電コストを縮減し、それを再エネ推進のための原資とすれば、電力価格を高めることなく低炭素で多様化されたエネルギーミックスを実現できる――。これが15年に政府が描いた見通しであった。しかし、想定された原資は、早くも底を突こうとしている。再稼働が停滞し、化石燃料価格が再び上昇すれば、電力価格の高騰は避けられない。
 FIT制度は、国内PVメーカーの競争力強化にも寄与していない。太陽光発電協会(JPEA)の資料などに基づき算定すると、導入前に80%ほどであったセル・モジュールの国産率は、導入後の13年第2四半期には、30%ほどまで一気に低下した。高い輸入依存度は現在まで横ばいのままである。
 FITによる需要創出は、PV価格低下に寄与したのか。同じくシリコンを原料とする半導体のように、その価格は長期的に低下基調にあった。08年、ドイツのFITに対して、英国エコノミスト誌の評価は辛辣である。「グリーン、安直で誤り。なぜ青臭いニューディールはバッドディール(損な取引)になるか」と題し、ドイツが世界でも日射量が少ない国であるにもかかわらず、FITを積極的に推進したことで、シリコン価格を上昇させ、より日射量が多く(効率的に発電できる)国での導入を困難にさせたと批判する。ドイツでFITが強化された04年以降、シリコン価格は08年までに2倍近くに上昇した。01年以降、PVモジュールの小売り価格は、欧州で年率4%ほど低下してきたが、シリコン価格の高騰を受けて、04年には2%ほどの上昇に転じ、横ばいが数年継続した。
 日本がFITを導入した12年、すでに世界のPV市場は成熟している。日本の急速な需要拡大は、大きな余剰生産力を持つ中国メーカーを救い、また日本向けの出荷価格はむしろ上昇した。13年第1四半期、日本の輸入価格(契約通貨建て)は年率換算で15%の上昇へと転じている。
 FIT法改正の行方が定まる16年第3四半期には、輸入価格は逆に年率50%もの急速な下落を記録した。FITによる推進期間内のプレミアムをそぎ落とし、国際市況としての価格低下スケジュールへと戻るような動きである。高い買い取り価格の設定は、価格を上方へと引きつける張力を持つ。健全な市場形成に必要なものは、拙速ではない、持続的な需要拡大である。

コスト競争力強化をうたうが

 政府は、依然として2倍にもなる再エネの内外価格差縮小に向け、コスト競争力の強化をうたう。しかし再エネコストは設備機器から、建設・流通といった、国内サービスへの依存度を高めている。高いサービス価格は、メンテナンスやサポートなど、より良い品質を求める消費者の選好による。
 建設労働者の高い賃金は、移民労働力への依存を抑制する限り、甘んじるべきだろう。相対的に高い地価は、日本の土地がより有効に利用される機会を持っていること、土地の生産性が高いことの成果である。安価な再エネを享受する国が現れようとも、日本の競争条件とは異なる。政府は、再エネ電力のさらなる導入に向け、蓄電池利用、水素としての貯蔵などの検討へ軸足を移している。魅力的な未来図は、大きなコスト負担の地歩のもとに描かれていることを忘れてはならない。