生きもののしたたかさの秘密に迫る

書評:ナシーム・ニコラス・タレブ著『反脆弱性[上][下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC1.5度特別報告書代表執筆者


印刷用ページ

エネルギーフォーラムからの転載:2018年8月号)

 これは現代の奇書である。著者はトレーダー兼研究者にして、急進的な思想家であり、奇人である。テーマは「反脆弱性」。脆弱性の反対は普通は頑強性だ。だが、むしろ脆弱な要素が内在する故に、システムとしては強くなる。

 人間が「環境を破壊」すると、それで喜ぶ生き物が必ずいて、新しい環境を作る。生態系はなくなるということはない。今ある生態系が破壊されることは、別の生態系にとってはチャンスになる。どのような自然条件においても、必ず何らかの新しい生態系ができる。

 コンクリートで覆われた直線的な都市河川でも、コンクリートの割れ目にはタンポポが生え、薄い砂や土の上にはセイタカアワダチソウが生え、ミミズは落ち葉やゴミを栄養にして土壌を作り出す。ミミズをハトが上から突っつき、モグラは地中で追いかける。川の中ではコイが繁殖して、カモや鵜が稚魚を狙う。川底からはユスリカが大発生して、コウモリがそれを食べる。ヒバリは草むらで虫を探している。

 生態系が打たれ強いのは、さまざまな種が生存競争を絶えず行い、環境に適合しない脆弱なものは淘汰される、という厳しいメカニズムがあるからだ。これは経済活動(業績の悪い企業は倒産するから経済全体は打たれ強くなる)、生命活動(機能不全になった細胞は死滅するから生命は維持される)にも共通した構造である。個々が脆弱だからこそ、システム全体としては打たれ強くなる。筆者は自然科学から経済まであらゆる題材でこれを縦横に論じている。


反脆弱性[上][下]――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方
著:ナシーム・ニコラス・タレブ(出版社:ダイヤモンド社)
ISBN-10: 4478023212、4478023220
ISBN-13: 978-4478023211、978-4478023228



温暖化の政策科学の記事一覧