遊びこそ未来を創る革新の親

書評:スティーブン・ジョンソン著『世界を変えた6つの「気晴らし」の物語【新・人類進化史】』


キヤノングローバル戦略研究所/IPCC1.5度特別報告書代表執筆者


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電気新聞からの転載:2018年6月15日付)

 原題はWonderland:How Play Made the Modern Worldである。邦題は上品ぶっているが、原題はもっとストレートだ。直訳すれば、「素晴らしき世界――“遊び”が現代世界をつくった」ということだ。イノベーションとは、天下国家のためや世界万民の辛苦を救うことを夢見た英雄がもたらした…という道徳の教科書くさい話では全くない。ひたすら、ぜいたく、娯楽、遊び、道楽、これこそが原動力だった、という話。何の役にも立たないからくり人形には、洋の東西を超えて千年以上の歴史があった。これがやがて時計、テープレコーダー、コンピューターになった。人工知能は、アラン・チューリングがコンピューターにチェスをさせようとした時から始まった。最近でも人工知能はクイズや囲碁など、真っ先にゲームに応用される。なぜゲームかはもちろん理屈もある。だが研究者本人が遊んでいるのも間違いなかろう。

 電気も奇術には長いこと使われていたが、産業になったのはようやっと19世紀になってからだ。生活必需品でも何でもないただのぜいたく品に過ぎないこしょう(肉の保存のために必需品だというのはウソだそうだ)のために、人間は航海技術を発達させ、世界一周までして、遠い国でのリスキーな事業を管理するために株式会社や保険制度も創造した。アメリカ大陸を征服し、伝染病をもたらして住民を壊滅させたスペイン人は、黄金という、これまたただの装飾品のためにこんな蛮行をした。木綿はイギリスのご婦人方にもてはやされ、産業革命による紡績機械の発明をもたらした。これはインドの木綿産業を壊滅させて帝国を滅ぼし、アメリカにはプランテーションと奴隷制をもたらし、南北戦争の伏線となり、今でも残る人種差別の遠因になった。フランスの貴婦人の襟巻きとコートのためにコサックはロシアを東進してアラスカに至る大帝国をつくった。

 翻って考えてみるに、日本では平賀源内が蘭学を輸入してエレキテルとかあれこれ作ったけれど、道楽と見世物にしかせず、何の産業にもならなかった。残念、と思っていたが、本書で、実はこれこそが世界の発明家の標準的なパターンであったと知る。発明は道楽や見世物にする場合が多く、産業に結びつけるなどというヤボなことをするようになったのは近代以降の特異現象のようだ。スマホ歩き、ポケモンGO、SNS、その他もろもろ、遊びこそが未来を創るイノベーションの親なのだろうか。


※ 一般社団法人日本電気協会に無断で転載することを禁ず


世界を変えた6つの「気晴らし」の物語【新・人類進化史】
著:スティーブン・ジョンソン(出版社:朝日新聞出版)
ISBN-10: 4023316326
ISBN-13: 978-4023316324



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