「2050年に向けた環境・エネルギー政策のあり方」(2)

~次世代を担う社員たちが議論!~


国際環境経済研究所主席研究員

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※ 「2050年に向けた環境・エネルギー政策のあり方」(1) ~次世代を担う社員たちが議論!~

(ⅲ) 経済問題とエネルギー政策の関係

 原子力発電の代替として火力発電を焚き増すと、化石燃料の購入量は増加する。これにより、1kWhあたり3円~4円ほど、燃料費が上乗せされた計算になる。その結果、電気料金は、家庭用は最大25%程度、産業用は最大40%程度、それぞれ上昇した。その後、油価等の下落により、2016年の燃料費は震災前水準まで下がったが、仕上がりの電気料金は震災前水準には戻っていない。これは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度による賦課金が電気料金に含まれるためである。賦課金は、2017年度で2.64円/kWh、2018年度で2.9円/kWhとなっている。

電気料金、燃料費、再エネ賦課金の推移

 今後も、政府は再生可能エネルギーの促進を目指しており、太陽光は約1.5倍、風力は約2倍、地熱は約5倍ほど、それぞれ増加を見込んでいる。無論、国民負担の抑制に向け、検討が進められているが、一方で、再生可能エネルギーの導入には、何らかのインセンティブが必要であることにも変わりはない。

(ⅳ) 温暖化対策の難しさ

 東南アジア諸国にとって、温暖化対策はより深刻な問題である。無電化地域も多く、薪を使用する人達も存在する。2040年には、東南アジアの電力需要は現状の約2倍になるものと予想されている。需要の急増に対応するためには、CO2排出量が最も多いが、しかし最も安価な石炭火力を使わざるを得ない。従って、2040年時点でも、石炭火力のうち、非効率な亜臨界が、その設備投資額の低さゆえに、半分を占めるものと予想される。

東南アジアの石炭火力の予測

 現在の世界の電源別発電量をみると、水力を除く再生可能エネルギーは僅か6%に過ぎない。2100年濃度が約450ppmとなるシナリオ(2℃未満に抑える可能性が「高い」シナリオ)の達成には、IEAの予測によれば、2060年の世界の電源別発電量の内訳は、再生可能エネルギーが74%、原子力が15%となっている注10)

世界の電源別発電量

450PPMシナリオの2060年世界の電源別発電量(IEA)

 世界の原子力の計画をみると、国別1人あたりGDPが概ね10,000ドル台の、所謂中進国が、概ね原子力志向にあり、ブルガリア、ハンガリー、ポーランドなどの東・中欧では、中国・ロシア企業の原子力発電を計画している。
 地球温暖化の行方は誰にも分からず、その予測には不確実性を伴う。不確実性下において、対策費を果たしてどの程度投じるべきなのか、温暖化対策の難しさはここにある。

2050年の環境・エネルギー政策のあり方を議論

 さて、ここまで、国際環境経済研究所所長・常葉大学経営学部教授の山本隆三氏の講演の概要を紹介した。その後、参加者は4グループに分かれて、講演内容に関する質問について議論し、山本所長を囲んでテーブル対話を実施。それぞれに理解を深めた後、「各国の温暖化政策に関して、日本に参考になるもの、ならないものは何か」をテーマに、グループ単位でディスカッションを行った。

山本所長を囲んだテーブル対話

(山本所長を囲んだテーブル対話)

 ディスカッションの後、各グループの議論の概要を順番に発表した。ディスカッションも終盤に近付くと、全員立ち上がって議論を纏めようとするグループも見られた。

グループディスカッションの様子

(グループディスカッションの様子)

注10)
IEA,"Energy Technology Perspectives 2017", https://www.iea.org/publications/freepublications/publication/EnergyTechnologyPerspectives2017ExecutiveSummaryEnglishversion.pdf

次世代を担う社員たちからの提言!

 各グループの発表では、様々な視点から、鋭い意見や新鮮な提言が相次いだ。
 主な内容を、項目ごとに紹介しよう。

■エネルギー安全保障

  • ロシアが天然ガスの供給を停止した欧州の事例から、エネルギーの分散が非常に重要であり、日本もリスク分散を進める必要がある。
  • 電源の多様性確保が非常に重要。資源国になりつつあるアメリカも、原子力などを進め、エネルギー構成のバランスを取ろうとしている。資源のない日本においては、それ以上にバランスを考慮しなければならない。
  • S+3Eの視点の全てにおいて優れた電源はないので、結局はバランスを取って進めていくよりほかない。

■経済性と環境性のトレードオフ

  • 経済性と環境性の両立に関して、トレードオフという意見が最も多かった。電気料金が上昇し続けると、様々な弊害が生じるため、スペインのように固定価格買取制度を遡って変更したことは、強権的との批判はあるものの、参考になる。他方、温暖化対策も重要で、固定価格買取制度により再生可能エネルギーが普及したことも事実。経済性と環境性のバランスをどのようにとっていくべきか、各国の政策を見ながら検討する必要があるのではないか。
  • 再生可能エネルギーのコストと既存エネルギーのコストでバランスをとって考える必要がある。国民がどこまでの負担なら納得できるのか最適なラインを探りながら、エネルギー政策を進めることが重要。
  • フランスの電気料金は安価ではあるが、原子力依存度が高く、何らかの事情で原子力発電が稼働できなくなった場合を考えると、非常にリスクが高い。

■安全性

  • ある程度リスクを受け入れなければ、経済性を享受できない。技術開発を進めて安全性を高めていくことが重要。

■次世代社員から政府への提案

  • 国際社会へのアプローチも重要。中国が石炭を抑制するのは、自国の大気汚染問題が背景にあるのだが、他方、気候変動枠組条約などの国際交渉の場では、CO2排出量削減や温暖化対策を強く打ち出しており、日本も国際会議の場で、環境対策にしっかり取り組んでいることを上手に説明していく必要がある。
  • 他国に左右されない事が非常に重要ではないか。他国の大きな数値目標は、一見すると優れているように思ってしまうが、各国の数値はそれぞれ独自の事情や背景に従って決められたものであるため、それらに拘る必要はない。
  • 政策を進めていくうえで、一定の柔軟性としたたかさが必要ではないか。勿論、一度コミットしたことは極力守る必要がある。しかし、ドイツが2020年までのCO2削減目標を諦めたように、達成不可能なら不可能と割り切ることも選択肢として持っておくべきである。しかも、ドイツは環境大国のイメージに変わりはなく、非常にしたたか。
  • エネルギー政策には、国民の理解も求められる。福島の原子力発電所の事故により、政策が全転換するのではなく、他国でも進められているように、原子力発電の必要性について、しっかりと国民理解を情勢していくことが極めて重要。

(発表の様子。熱心にメモを取る参加者も)

 最後に、山本所長から、「日常の業務では、日本のエネルギー・環境政策について、考える機会がないかもしれないが、そのような中で、非常に良く考え抜いて頂いた。エネルギー・環境政策は、唯一の正解のない課題であり、だからこそ皆が頭を悩ませている。今後も、色々なテーマについて、しっかり考えることによって、次の仕事のヒントを得てほしい。このプログラムは、各企業の中ではなかなか得られない、非常に貴重な機会であり、自身の長期的な将来のキャリアに活かせるのではないか。」とのコメントを頂いた。
 2050年という超長期の時間軸で政策を考えるうえで、メーカー、商社、インフラ、ゼネコン、シンクタンク等、多様な企業で、多様な業務に従事する、中堅社員たちが集まって議論する意義は大きい。関西経済連合会 地球環境・エネルギー委員会では、得られた意見を、今後の政策提言に活かしていく予定であり、今後の同プログラムの展開に大いに期待したい。